第9話 領地侵入罪で懲役百年だ!

 アイシャの家の方から悲鳴が聞こえた。

 まだ誰も来ていないのに何を叫んでいるのか。


 「どうした?ゴボルが出たか?」


 家に入ると、白髪の女が部屋の角でガタガタと震えていた。

 怖がりにしても異常な怖がり方だ。


 「いや、いや、近寄らないで!誰も来ないで!」


 女は焦点の合わない目で叫び続けた。


 「どうしたんだこいつ?お前まさか、いじめたのか?」

 「そんなことしませんよ!私がゴボルが来たなんて余計なこと言ったから……シエラは、ノーラン兵に両親を目の前で殺されて、半年も監禁されていたんだ。そのノーラン兵をゴボルが殺して次は奴隷さ。運の悪い子だよ」


 女の身体には無数の傷跡が刻まれていた。


 俺も前世では悲惨な人生だったが、この女程では無い。

 こいつも死んだら転生できるのかな。

 そういえば神様のジジイが言ってたな。

 バランスが大事だと。

 今からでもこいつを幸せにしてやれば、こいつの人生も少しは報われるのだろうか。


 「……やはり人間は最悪だな」


 俺は小屋を出て、広場の中央に立った。

 森の中からゴボル傭兵団が大挙して押し掛けてきた。


 「ここの集落の者!出てこい!人を探してる!」


 ゴボル傭兵の一人が叫んだ。


 「ここは俺の土地だ。今すぐ立ち去れ。ゴミ虫共」

 「あっ、こいつだ!昨日奴隷を盗んだやつだぞ!囲め!」


 ゴボル傭兵はぐるっと周りを囲んできた。

 ざっと数えても百人くらいいそうだ。

 いくら自分の強さに自信があると言っても百対一はどうなんだ……。


 「俺はゴボル傭兵団の頭領、ビバル・バンデラだ!そこのガキ!なぜ俺達の商売を邪魔した!」

 「人を売るのが商売?笑わせるな。売りたいなら自分を売れ」

 「奴隷売買は合法だ!ハースタン公国の許可証もある!お前はユグル市内にて違法行為をした!お前は罪人だ!」

 「俺が罪人だと?ふざけるな!そんな戯れ言に騙されるか!」

 「いいや、お前は違法行為をした!どうせこの土地だって不法占拠だろ!大義は我々にある!大人しく降伏しろ賊め!」

 「くっ……法律を盾に屁理屈ばかり……。お前らがその気ならいいだろう、これよりこの土地をユートリアス王国とする!我が法にのっとりお前達は今すぐ降伏しろ!」

 「そんなもの認められるか!バカだろお前!お前が降伏しろ!今すぐ降伏しろ!」

 「いいや、お前が降伏しろ!領地侵入罪で懲役百年だ!」

 「このガキ、マジで頭がおかしいぜ……お前ら!今すぐこいつを捕らえろ!奴隷も逃がすなよ!」


 ゴボル傭兵団は一斉にかかってきた。

 戦う覚悟を決めるしかない。


 俺は、衝撃波をイメージして気合いを入れた。

 すると、自分を中心に空気が振動し、百人あまりのゴボル傭兵団が全員吹っ飛んでいった。


 「口ほどにもないな。ビバル、まだやるか?」


 啖呵を切ってみたが、正直自分の強さに驚いていた。

 この身体最強すぎじゃないか。


 「くう、なんだそりゃ!どうなってやがる!」


 ビバルは脇目も振らずに走り出した。

 逃げるビバルを追いかけて、ささっと捕まえた。

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