第8話 みんなで石器を作ろう

 ────カンッ、カンッ、カンッ



 寝ぼけた頭に奇妙な音が響く。


 朝っぱらからカンカンうるさい。

 何をやってるんだあいつらは。


 小屋からはい出して、外を覗いた。

 まだ外が薄暗い。

 老人じゃあるまいし、なんでこんな時間に起こされなくてはいけないのか。


 おじさんたちは、石を打ち付けて石器を作っているようだった。


 「朝からうるさいな。そんなもの作ってどうするんだ」

 「おはようございます、グラルド様。狩りや炊飯をしようとしたのですが、何かと刃物は入り用ですし鉄も無いもんで……」

 「それで石器?刃物くらいユグルで買えばいいだろ」

 「金が無いって言ってるでしょうが」

 「あ、ああ。そうだったな。しかしこう朝からカンカンうるさくされると俺も腹が立つ。どうしたものか」

 「どうもこうもありませんよ。このままじゃ飢え死にしてしまうんで我慢してください」

 「よし。わかった。俺も手伝ってやる」


 俺は、手頃な石を探した。

 人くらいの大きさがある岩を見つけたので、殴る。

 岩は粉々に砕け散った。


 「ほら、好きなのを使っていいぞ。これで十分だろ」

 「いや、石がバラけても形整えなくちゃいけないし、静かにはなりませんよ。素材が増えたのはありがたいんですがね」

 「……お前は本当に屁理屈ばかりだな」

 「どこが屁理屈なんですか。とにかく我慢してください」

 「仕方ない。他の作業も手伝ってやるから作り方を教えろ」

 「斧用のこういう形の石と、ナイフ用のこういう石と、矢じり用のこういう石を作るんです」


 俺は、完成品を見ながら同じような形になるよう指でゴリゴリと石を削った。

 ヘライオスと他のやつらは多分尊敬の眼差しで俺を見ていた。


 しばらくして大量の矢じりができると、男達の半分は狩に行くと言って森に入っていった。

 代わりに女達が入ってきて、斧や弓矢の生産をはじめた。


 「アイシャ。女が一人いないな。どうしたんだ?」


 たしか女性方は四人いたはずだ。

 今は三人しかいない。


 「具合が悪いみたいで休んでますよ」

 「そうか。風邪でもひいたか。お前達の干し草が無かったからな。干し草くらい自分でつくれよ」

 「風邪ではないと思うけど……まあ大丈夫でさあね」


 アイシャは何か含みをもってそう言った。

 しばらく作業をしてると、狩に行った男達が慌てて戻ってきた。


 「たたたたたた、大変だっ!大変だ!大変だ!たたた大変だあああ!」

 「うるさい!黙れ!」


 俺は思わず怒鳴ってしまった。


 走ってきた男はピタッと黙ったが、頭を抱えて声にならない声をだして地団駄を踏んでいた。

 無言で何かを必死に伝えようとしている。

 何かを伝えようとする気持ちは伝わったが、こいつはうるさすぎだ。

 慌てるにしても限度を超えてる。

 十年も鳥の声だけ聞いて一人で過ごしていた俺にとっては、こう騒がしいのは耐え難い。


 「どうしたドミニト!何があった!」


 ヘライオスがドミニトに駆け寄った。

 このうるさいおじさんはドミニトというのか。


 「ゴボル傭兵団がこっちに来てる!山の中で見かけたんだ!すげえ数だ!」

 「な、なんだって!見間違いじゃないのか!?」

 「いやいやいやいやいや、はっきり見た!この目でみたんだ!」


 二人は見るからに焦っていた。

 ゴボル傭兵団とは、何か聞き覚えがある。


 「そいつらが来たら困るのか?」

 「グラルド様が昨日ぶちのめしたやつらですよ!復讐しに来たんです!」

 「それはけしからんな。俺の山に勝手に入るとは不法侵入だ」

 「だからあんたの山じゃないだろ!どうするんだよ!」

 「怖いならお前達は家に入ってろ。怖いならな」


 みんな一斉に家に駆け込んだ。

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