第32話

「おいそっちにいったぞ!!」


「はいはい。火炎弾ファイヤー・ボール


 薄暗い遺跡の中を隊列を組んで進んでいた。途中に現れる魔物たちを倒し、仕掛けられた罠をやり過ごしてゆく。


 前に来た時に通路や罠は散々に破壊したはずなのだがその痕跡は最早なく、元の姿を取り戻していた。恐らくは遺跡の機能によって修復されたのだろう。


 今この瞬間にも魔物、スライムや2体のゴーレム達が現れる。しかし結論から言えば俺が動く必要はなかった。


 スライムは登場と同時に飛んできた炎に焼かれ燃え尽きた。それとほぼ同時にゴーレムの一体は真っ二つにもう一体は核を一突きされただの土へとその姿を変えた。


 今から少し前。いざ出発しようとした時にガーゴイルやトラップ察知のために俺が先行すると提案したのだがクルツ達、冒険者に待ったをかけられたのだ。


「俺たちは護衛のために呼ばれたんだ、俺たちが先に行くぞ。なーにお前らの手は借りなくとも大丈夫だ」


 そう強気に言い切るクルツに他の二人も頷いている。でもと言いかけるルカに今度はエルゼがウィンクしながら言葉を続ける。


「本当に大丈夫よ~。せっかくついてきたんだから私たちが『出来る』ってところをちゃんと見せなきゃね」


 そこまで言うのならと任せてみたのだが、その言葉通り出てくる魔物達は瞬時のうちに彼らの手で始末されていった。


 先頭を歩くクルツがその手に持つ戦斧をもって敵をかち割ってゆく。石の体を持つガーゴイルすら一撃の元に粉砕していた。その彼を何とか抜けてきた魔物も後ろに控えるエルゼの魔法で瞬く間に葬り去られる。


「うわ~凄いね!! オズもそう思わない?」


「ふむ、まあまあ腕前は確かのようだな」


 その洗練された戦いをみてルカが感嘆の声をあげる。危なげない戦いを繰り広げる彼らを見て俺は自分の見立てが正しかったことを悟る。最初に会った瞬間から油断ならない力量を感じていたのだ。


「でもクルツさん達だけに任せるのは何か申し訳ないわよ。せめて援護しないと」


「別に大丈夫じゃない? 下手に手を出さない方が良いんじゃないかな~」


 弓を構えるユーリを見てジョンが呑気に言葉をかけている――――――とその後ろに敵の方から気配が。


 それに対応しようと俺が振り向くが、そこに現れた敵は既に槍の一撃を受けて灰塵に帰していた。前で戦闘を行っていたはずのウェインがいつの間にか後方へと現れていたのだ。


「後ろにも気を付けないとな。ユーリくんジョンくんの言う通り援護等は必要ないよ。我らの顔を立てると思って手を出さないでくれると嬉しいな」


 さらに現れていたガーゴイル三体を瞬く間に斬り払い黙らせた彼は、こちらの会話もきちんと聞いていたようで弓を構えていたユーリを止めた。


 そして罠の察知に関しても彼らは力を発揮した。エルゼが魔力感知により罠を見つけ、魔法を介さないトラップも冒険者としての感なのか即座にみつけて解体してしまった。

 

 中には気づくことが出来ず発動してしまうものもあったのだが、俺が手を貸すまでもなく即座に対処していた。


例えば矢が降り注ぐ罠、落ちてくる矢を己の武器をもって全て切り払い。


例えば剣山が底で待つ落とし穴があっても互いを助け合って難なく超えていく。


 その冒険者達の姿は互いの信頼によって成り立っている、パーティーとして完成されたそれを少し羨ましく感じてしまうのだった。



「それにしても敵が多くないか? ――――――と甘い!! まあこのレベルの敵なら問題ないけどよ」


 魔物との戦闘を続けながらクルツがボヤく。挟み撃ちにされそうになるが難なく戦斧のひと振りでまとめて叩き潰した。


「確かに負けることは無いけど怠いのは間違いないわね…火炎嵐ファイヤー・トルネード


 炎の嵐を持って数体の敵をまとめて消し炭に変えたエルゼもそれに同意する。


 クルツの言葉に少し思案する、確かに前に来た時より魔物などの出現回数が多い。それに今も倒されていたスライムなどは前は見かけなかった魔物だ。機能が戻ったために防衛が厚くなった可能性もあるが、何かの違和感を俺は感じ取っていた。


 とその時ここで遺跡に到着してからずっと黙り込んでいるアリアの姿が目に入った。何か思案するような彼女は普段と違い真剣な表情になっていた。


 もしやと思い近づいて声をかける。


「おいアリア? 遺跡に入ってから黙り込んでるな。 もしかしてこの遺跡に何か起きてるのか? 違和感を感じるんだが…」


「すみません……もう少し待って貰えますかご主人。 まだ確かな事は言えないので」


 どうやら昔のパスを用いて状況を確認しているようだった。それはつまり何かは起きているということか、アリアの言葉に思わずため息をついてしまう。


 命の危険が迫っている様な嫌な予感は今のところ無いのでそこまでの危険はないのかもしれない。だが面倒事が待ち構えているのは間違いなさそうである。


 通路の先を眺めてもう一度深いため息をつき、半ば諦めにも似た思いで先へと進んだ。


前回来た時に破壊した場所の修復はされているようだが、構造自体は変わってないようだ。

 前とは違って冒険者たちが敵の相手をしてくれているので周囲をよく観察することができた。


 俺がしたことといえば希に前線を抜けそうになった敵を始末したくらいだ、まず気づかれてないだろう。


 構造は変わっていないのに違和感があるのは何故か、やはり思考はそちらの方に向いてしまう。アリアの答えを待てば良いことではあるのだがどうも気になる。


 それと気になることはもう一つあったりする。先程から冒険者の一人エルゼから戦いの合間合間でジッと視線を向けられているような気がするのだ。



 しばらく進んだところで見覚えのある場所があった。ここまで来たということはあの場所が近い―――そう奴がいる場所である。





迫り来る敵を蹴散らしながら進み到着したのはあの闘技場に似た空間。以前守護者と対峙したあの場所だった。


「ここって…もしかしてルカたちが話していた騎士と対峙した場所じゃない?」


 その部屋の雰囲気からいち早くユーリが検討をつけた、確認してくる彼女に頷きを返しその予測が正しいことを伝える。


「騎士って確か大木くらいの図体がある化物って話だったか」


「そうだ。どうやら今回も相手をしなければならないようだな」



 クルツの言葉に答えながら前を見つめる、そこにはあの時と全く同じ姿で騎士が膝まづいていた。

 ここまで来るまでに半ば予想は出来ていたがやはり奴も元通りに修復されていたようだ。


 一歩足を部屋に踏み入れた瞬間にその騎士は目覚めた。


 胸のあたりに嵌められた宝珠が輝きを放つと、騎士はその腰にあるそれまた巨大な剣を抜き放ちこちらへと一歩一歩向かってくる。



「へ~あれがそうか!!」


「あれが例の騎士とやらか、ふむ予想以上の威圧感を持っているな」


「あの鎧もあるし防御も堅そうね。それなりの威力をぶつけないといけないか……それでオズだっけ、貴方実質一人でアレを倒したのよね?」


 少しづつ敵が近づいてくるなかで冒険者達は敵に関しての情報を整理していく。そんな会話の中でエルゼの俺に対しての確認によって俺へと注目が集まった。


「そういえばそうなのよね…あんなのを一人で倒したっていうの?」


「すごいなぁ、というか本当なの?」


 過去に俺が一人でアレを倒した話を思い出したユーリ達が驚きの声を上げる。話を伝え聞くのと実際見るのでは実感が違ったのだろう。


「ああ、その通りだ。証人ならルカも見ていたからな、合ってるよなアリス」


「う、うん。間違いないよ」


特に隠しているわけでもないので素直に肯定する、ルカにも話を振って事実であることを告げた。


 さて今回も魔法の実験台になってもらおうか。


 しかし、なぜ今そんなことを聞いてきたのか。エルゼの声はどこか刺のある言い方だった。その謎は冒険者達の次の言葉ですぐに知ることが出来た。


「だったら私たち3人だけであの敵は倒すわ」


「そうだな、護衛という役割もあるんだ」


 エルゼの宣言にウェインも肯定の意志を示した。その一言で俺は彼らの心情を察した。あの騎士相手に俺たちの、いや俺の助けはいらないというのだろう。


「そ、そんなみんなの力を合わせれば良いじゃないですか!!」


「ごめんね。ちょっと思うところがあってね。正直に言っちゃうとオズには手伝ってもらいたくないのよ」


 ユーリがたまらず口を開くが即座に断られてしまった。今の言葉はやはり――


「悪いな嬢ちゃんたち。エルゼの奴はあの転送魔法の件でその動物に対抗心を持っちゃったみたいでよ。同じ魔法を使いこなすものとしての意地ってやつだな」


 ここに来てクルツが訳も分からず混乱しているルカ達に簡単に説明の言葉を伝える。


 その言葉を肯定するようにエルゼはフンっと鼻を鳴らした。


「まぁエルゼだけじゃないんだけどな。あんな敵を一人で倒したなんて聞いて俺も対抗心が燃え上がったわけだ、それはウェインも同じだ。なんて言ったって俺たちは冒険者だからな」


 そう言い切ったクルツの目からは揺らがぬ意志の強さを感じる、それは他の二人も同じだ。


「まあそういうわけで、悪いが俺たちだけで倒させてもらうぜ!!」


 言葉を失ったルカたちと黙り込んだ俺にそう言った冒険者たち3人は俺たちに背を向けて騎士へと向かっていくのだった。

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