第10話 村
街道を歩き切りようやく村に到着した頃には辺りは日も落ちて真っ暗になっていた。ただ夜だというのに村の中は何故だか騒がしい。
「何か慌ただしくないか?」
「どうしたんだろう? みんな広場に集まっているみたい」
ルカのその言葉に奥を見てみると広場らしきところに大人たちが松明を持って集まっている。真剣な顔で何かを話し合っているようだが何か事件でも起きているのか…。
「とりあえず行って話をきいて来たらどうだ? ここにいても何も始まらないだろ」
「…そうだね。行ってみよう」
直接誰かに話を聞いてみるのが一番手っ取り早いだろうということで広場に向かうことに。ところがいざ歩きだそうとしたところで突然にルカに抱えられてしまう。
「…なんのつもりだ?」
「人ごみに向かうわけだしはぐれちゃったら不味いでしょ? それに踏まれちゃう可能性もあるからこうしたほうが良いかなって思って」
こちらの抗議に対するその解答は納得できないものではない。しかし抱えられるってことに抵抗があった、主にプライド的な問題で。
「踏まれそうになったら吹き飛ばしてやるから大丈夫だ」
「それはもっと問題だよ。村のみんなに怪我なんてさせないでよね。村の中では目立たないように、あまり強い魔法はつかわないこと。約束してくれるよね?」
反論してみるが、さらなる注意を受けてしまう。その勢いに負けてコクコクと頷く。確かに無駄に目立った行動をして厄介事を増やす必要もないだろう。ここはこちらが折れて受け入れるしか無いようだ。
「…はあ、分かったそれでいい」
「うん! それじゃあ行こうか」
人ごみの方に近づいてゆく。集まっていた内のひとりの男性がこちらに気づいたようだ。何故か慌てた様子のその男性が誰かを大声で呼んでいる。
それからすぐのこと、その人ごみの中から一人の人影が飛び出してきた。飛び出してきた勢いそのままにこちらに向かって体当たりするように向かって来る。慌ててルカの後ろへと退避する。
ドンっと言う音がしたかと思えばルカがその人影に抱きしめられていた。
「おかえりなさいっルカ!! 無事でよかったわ」
その人物はルカと同じ栗色の髪の女性、20代くらいに見えるその人は―――。
「お、お母さん?」
「ずっと心配していたのよ。怪我とかはない?」
どうやらルカの母親、その人であるらしかった。よほど心配していたらしくその目尻には涙が溜まっている。
「大丈夫だよ、ごめんね心配かけて。帰って来れて本当に良かった、ただいま」
対するルカも感極まったのか泣き顔だった。ともあれ、『約束』をちゃんと果たせたようで一安心である。
その後、広場に集まっていた人たちは解散してそれぞれの家へと帰って行った。自分たちもルカの家へ向かう。
家に到着してからようやく先ほどの一件について話が聞けた。
「―――え? それじゃあ僕を探すための捜索隊を出そうとしてたところだったの?!」
「そうよ、何日たっても貴方が帰ってこないし、良くない話も聞こえてきたから。心配になって村のみんなにお願いしてたところだったの」
ルカの母の話によると、薬草を取りに出かけてから何日たっても帰って来ない事を心配していると、猟師の一人からルカの向かった森の様子が変だという話が飛び込んできたらしく、それを受けて急遽捜索隊を出そうとしていたところだったようだ。
森の異変というのは多分あの聖域の一件のことだろう。色々と大変なことになる一歩手前だったようだ。捜索隊が出る前だったことが唯一の救いだろうか。
「ルカが無事で何よりじゃった。ただ村のみんなには迷惑をかけてしまったようじゃな、明日にでも礼を言いにいかんとな。」
「疲れているんじゃないかい? ひとまずこれでも飲んで温まりなさい」
家の奥から老夫婦らしき二人が現れる、どうやらルカの祖父と祖母のようだ。
こちらの2人もよほど心配していたらしく思いっきりルカを一度抱きしめた。そのあとに何かカップに入ったスープらしきものを持ってきてくれた。
そしてそれを飲みひと心地ついた後に今まで何があったかを聞かれる。最初言い淀んだルカだったが、さすがにそのまま俺の事を含めて全部話すのはマズイと思ったのか全ては話さずにいくつかの事柄を選んで答えていた。
「つまり森に異変が起きて帰れなくなって、何日か彷徨ってるうちに異変が収まったから帰って来れたってことかい?」
「う、うん。とりあえず森はいつも通りに戻ってたよ」
「それは幸運だったというべきか…これは神様に感謝しないといけないね」
どうやらそういうことになったらしい。とりあえず遺跡関係の話はカットしたようだ。色々と説明し難いことも多いので中途半端に話して心配をかけるよりはマシなのかもしれない。
「ところでルカ。貴方の横にいるその小動物は何なのかしら?」
ルカの母親が俺を指差してそんな質問を投げかけてきた。一通りの質問が終えたところでようやく俺に気がついたらしい。
ずっと一緒だったのだが…ルカしか見えていなかったようだ。
「え~と、なんて説明したら良いか…」
さて突然見た目小動物の俺が話し始めるわけにもいかない。ここはルカにお任せするとするか。
「つまり森から拾ってきたのね?」
「そうなんだ、森で一人で心細かった時に出会ってね」
ルカ達の話に耳をかたむければそんな話が聞こえてきた。どうやらそういうことになったらしい。つまり俺は森から拾われてきた野生動物というわけか。
確かに『人の言葉を話す動物に助けてもらいました』なんて言うわけにもいかないだろうし正気を疑われるだけだろう。それに仮に信じてもらえたとしてもそれで騒ぎになられても困る。
ここは合わせてただの動物の振りをしておこう。とりあえず毛づくろいのフリでもしておこう。
「それでなんだけど…家でお世話しちゃダメかな?」
「それはうちでその子を飼いたいってことよね?…はぁ。今から森に戻して来なさいとは言えないわ。ただし、ちゃんと責任持つのよ?」
「分かった! ありがとうお母さん」
話が纏まったようでここに厄介になれるらしい、ペットとしてのようだが。それについては多々抗議したいところではあるが今は良いか。
ここにいつまでいるかすら決まっていないのだから、寝起きする場所が確保できただけ御の字だろう。
そのあとは何やら色々と話し込んでいるようだ。ルカの母親が出してくれたミルクを飲みながら耳を傾ける。
それにしても出されたミルクをこんなふうに舐めていると本当に動物になってしまった気分である、見た目だけを言うなら動物そのものではあるが。
「そういえばルカ。ユーリちゃんも凄く心配してくれていたわよ、貴方の捜索をお願いしにいったときとかもお手伝いしてくれたの。明日の朝にでも顔を見せに行ってね」
「そうなんだ、心配かけちゃったなあ、明日会いに行ってくるよ。……何か怒られそうな気もするんだけど」
何やら明日の予定も決まったらしい、誰かに会いにいくようだが誰なんだろうか。
そのあとは所謂世間話へと移っていった、ご近所さんの一人息子がどうだとか、牧場で牛が脱走して大変だったなど、特に気になる情報もなかったので聞き流してしまう。
…そろそろウトウトしてきたところでようやく話が終わったようだ。
「ルカ? その子も連れて行くの?」
「僕の部屋で一緒に寝ようかと思って、それじゃあ、おやすみなさい」
「ゆっくり休んでね、おやすみ」
母親たちと挨拶を交わして移動する、俺はルカに抱えられてだ。
ルカの自室へと移ってきた。小さめのその部屋には机がひとつと色々な小物が入っている棚がひとつ、あとはベットが一つの質素な部屋だった。
ルカの腕から抜け出してまずはベットの上に陣取る。
「ここが君の部屋か?」
「う、うん恥ずかしいからあまり見渡さないで欲しいかな」
キョロキョロ辺りを見渡しているとそんなことを言われてしまった、汚れてるわけどもないし何を気にする必要があるのだろうか。
「どうした? 何か落ち着かないようだが?」
「…あのさ? オズって性別ってどっちなの?」
「オス…いや男だがそれがどうかしたのか?」
「やっぱりそうだよね…」
変なことを聞いてくる、それが何だというのだろうか。それより自分が小動物として順応しすぎていたことにショックだ。良く分からないことは置いておいて気になっていた事を口にする。
「これで俺もペットというわけか」
ついつい嫌味みたいになってしまった。それに対してルカは申し訳なさそうにただ「ごめん」と返してくる。あの状況では仕方が無いとは思うが俺にだってプライドがあるのだ。せめて愚痴くらいは勘弁してもらいたい。
「まあ良いさ。さていつまでのことになるか」
「え? それってどういうこと?」
「ずっとここにいるわけにもいかないだろう? 帰る方法も探さないと」
「そっか…」
当たり前の事を言っただけのつもりだったのだが予想外に気落ちされてしまった。
「まぁ今のところ何の手がかりも無いからな、しばらくは世話になるよ頼んだぞ」
「うん、任せておいて!」
俺の言葉に気を取り直したルカと改めて握手を交わす。
さて話が一段落したところで気になっていたことを聞いてみよう
「そういえば、明日誰かに会いにいくとか言っていたようだが誰なんだ?」
「ああ聞いてたんだね。僕の友達のところだよ。」
「友達?」
「僕の幼なじみでね、昔から一緒に遊んだりしてる親友だよ」
その相手を思い浮かべたのだろう、顔には笑みが浮かんでいる。かなり親しい相手のようだ。
「どんな奴なんだ?」
「う~ん良い子だよ。説明するより会ってみると良いよ、明日一緒に来ない?」
ふむ、特に予定はないから行ってみるのも良いかもしれない。
「分かった。せっかくだからついていくよ」
「良かった、じゃあ今日は一緒にお出かけだね。今日は早く寝よう…ってどうしようか」
最初何のことか分からなかったがどうやら寝床の話らしい。
俺は布一枚でもあれば床で十分だと伝えても、それでは悪いと思ったのかうんうんと唸っている。このままでは埒が明かないのでベットから掛け布団の一枚を取ると床に敷それに包まって横になる。
そこでようやく諦めたのかルカもベットへ入ったようだ。…さすがに疲れた、どんどん瞼が重くなってゆく。
「おやすみオズ」
「あぁ、おやすみルカ」
最後に一言交わして夢の中へと落ちていった。
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