8
「どないしてん? こんなとこで難しい顔して」
風見は、以前会った時と同じくからからと笑っていた。あの時感じた奇怪な空気は感じない。だがそれでも、目を合わせるのが少しだけ怖かった。あの人たちと同じなのかと思うと、どうしても怯んでしまう。
「こ、こ、こんにちは」
「はい、こんにちは。また何か探しもんか? それとも何か落としたんか?」
「いえ、ちょっと……」
言葉を濁す初名の傍に、もう一人同じように難しい顔をしている人物がいると気付いたようだ。風見が和子の顔を覗き込むと、和子もまた風見の顔をふわりと見上げた。
その瞬間、二人の視線が合い、互いに目を見開いていた。
「キミ、もしかして……?」
「あら、あなた……」
どちらもが目を瞬かせて、じっと見つめている。驚いてはいるが、悪い印象を持っているわけではなさそうだった。
「お知り合いなんですか?」
「ああ、そうやな。この子は……」
「……ああ、思い出したわ!」
風見の言葉を待たず、和子は叫んだ。大きく目を見開いた顔は、それまで見ていた穏やかさの殻が剥けたようだった。和子は興奮したように落ち着きなく、初名の肩をぎゅっと掴んでいた。
「な、何をですか?」
「指輪があるところ! 何で忘れてたんやろ」
和子の目が急に輝きだした。浮かべた笑みも、軽やかで活き活きしたものへと変わっている。
「あの人は、まだいてはりますか?」
「……ああ、おるよ」
「あ、あの人って?」
「指輪をくれた人。ずーっと、会いたかったんや」
和子は、うふふと笑っていた。
「あの……全然、話が見えないんですが……さっきまで地下街を探し回ってたんですけど……?」
初名が尋ねても、和子の耳にはもはや届いていないようだった。その問いに答えたのは、風見の方だった。
「あの子の探し物はな、ここにはないんや」
「じゃあ、どこに……?」
訊ねた初名に、風見は微笑みで返した。それが何を意味するのか、察しがついてしまった初名は、くるりと踵を返した。
「じ、じゃあ私はこれで……後のことはよろしくおねが……!」
そこまで言って、歩き出そうとした初名の腕を、風見が強く握りしめた。離さないという、強い意志を感じさせる膂力で。
「な、何ですか?」
「ものは相談やねんけどな……ここ、どこかわかるか?」
にっこり笑ってそう言った風見。これは、つい先日も見た笑顔だ。
「……道、迷ったんですね」
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