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「まだ探してないのはあっちです。そっちは、さっき来た方向ですよ」 

「え?」

 初名の指摘を受けて、風見は真逆の方向を何度も見比べた。

 ようやく周囲をぐるりと見回したようだが、どうもピンと来ていないようだ。どちらかと言うと、違う感情……”感動”が浮かんでいる顔に変わっていった。

「もしかして……道わかるん?」

「わかりませんけど、そっちじゃないだろうことは何となくわかります」

「めっちゃすごいやん! この地下街で道わかるて……しかも初見で!」

「はぁ?」

 風見は周囲も顧みず、初名の両手を掴んでぶんぶん振り回した。それほど感動することだろうか。いや、そんなことよりも……

「あの……大声やめてください。人多いんですから」

「大丈夫、聞こえてへんから」

「そんなわけないでしょ」

 仮にここにいる人たちが美男など見慣れていて風見など目もくれないのだとしても、こんな大声を出されては目立つに決まっている。たかが来た道を言い当てたくらいで悪目立ちしてはたまらないのだ。

 とにかく風見を止めなければと、何とか両手を振りほどこうとするが、ほどけない。やんわりした見た目に反して、力が強い。

「もう俺、どこまでも着いて行くわ! 連れてって」

「どこへですか! もういいです。ここからは一人で察しますから、とにかく放してください……!」

「そんなん言わんと、俺のことも連れてってぇや。見捨てんといて」

 言っている意味が分からない。

 初名はこれまで鍛えた全力を以て振り払おうと力をこめた。と、その時……バシンと大きな音が聞こえた。

「放さんかい、アホ」

 音は風見の背後で聞こえた。どうやら、頭をしたたかに殴ったらしい。

 初名は殴った人物の方に目を向けた。

 そこには、風見と同じくらいの上背のある男性が立っていた。真っ黒な髪と切れ長の瞳、そして引き結ばれた口元の、厳格そうな印象の男性が。

 紺地の着流しを纏って、黒い前掛けをしている姿は、時代劇などに出てくる商人のようだった。

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