それぞれの立場


「問題はどこから攻めてくるか、だね。タスカ・グレモアの情報を待つしかない、かな……」

 フォース学園長が腕を組み、難しい表情でトントン、と机の上に広げた地図の上のグレミア公国を叩いた。


 どこから攻めていくるか待つしかない?

 いや。

 私は知っている。

 どこが戦場になるのか。

 何が狙われるのか。

 結果、どうなってしまうのか。

 全てを、何度も何度も、繰り返しプレイして見てきたんだ。

 その場所は──……。


「グローリアス──」

「何?」

 私の呟きが会議室にポツンと響き、視線が自ずと私へと集中する。


「グローリアス、と言ったか?」

「先生……はい。グレミア公国はセイレ城とグローリアス学園のあるこの中央圏を目指して集中攻撃してきます。ここには彼らが望む聖女がいます。そして騎士団の本部も。あとは……私が、王族がいるから。そう考えれば妥当でしょう」


 【マメプリ】ではセイレ城云々なんて出てこなかったけれど、おそらく間違いない。

 奴らは城と、学園を目指してやってくる。


「しかし、お姫様はご存知ないだろうが、戦争とはじわじわと追い詰めていくものであって──」

「相手の武器も有限です。魔術師の一部だって私がやっつけたりしちゃってますし警戒もしているでしょう。ここでの戦いは最短で決めたいはずです。ベラム国とロンド国は、人的な援助ではなく、武器や薬の提供を主としているようですしね」

 突っかかるマーサ隊長を制して私がいうと、彼女は悔し気に顔を歪ませて口をつぐんだ。

 グレミア公国に手は貸すものの、自分たちは一歩一歩引いたところから関与する

 なんともまぁ、いい性格をしている。

 ただ、それで罪が逃れられるわけではない。

 侵略に関与したという事実にはかわりないのだから。


「なるほど。君が言うなら間違い無いのだろうな」

 まっすぐに私を見つめ頷く先生に、私は笑顔を向ける。

 先生は私の見てきたものを信じてくれている。

 そう思うだけで、私の心に力が湧いてくる。


「ならばすぐにセイレ城とグローリアス学園のある中央圏に結界を巡らせよう。避難所ともなる各神殿にもだ。大司教、指示を頼めるだろうか?」

「おまかせを」

「私も手伝います!!」

 私だって聖魔法は使える。

 そのぐらいは手伝えるはずだ。

 私がそう手を上げると、大司教様は目尻の皺をくしゃりと刻みつけ「助かります、ヒメ様」と笑った。



「だが数からすればこちらは不利ですぞ。グローリアスの生徒を使いますか?」

「おい!! 生徒達は兵じゃねぇぞ!!」

 ガレル隊長の発言にレイヴンが噛み付く。

 普段の様子からは思いもしないが、やっぱり彼は根っからの熱い教育者のようだ。


「だが人が足りないのは事実!!」

「くっ……」

 きっとガレル隊長だって、子ども達を戦わせたいなんて思ってはいないだろう。

 じゃなきゃ、あんなに悔し気に、力一杯自分の拳を握りしめたりはしない。


 そんなやりとりを無言で見つめた後、先生がゆっくりと口を開いた。


「……生徒の意思に任せる。もし残るとしても、彼らにはカンザキやレイヴン、お前が守る力をつけただろう。Aクラスの生徒達も、自分を守るだけの魔法は使えるようになったとパルテ先生がおっしゃっていた。ならばきっと、大丈夫だ。夜、集会を開いて、騎士と生徒を集め、私が説明した上で彼らに判断を委ねよう」


「っ……わかった……。絶対に強制はしないでやってくれ」

「あぁ。もちろんだ」

 2人とも、先生なんだよね。

 ちゃんと生徒のことを考えてる。

 騎士としての立場での意見も、教師としての立場での意見も、しっかり持って考えている。


 私も……もう、十分だ。

 十分、皆と普通に過ごさせてもらった。

 なら私は、自分の与えられた立場の中で、自分にできることをしないと──。


「話はまとまったかな? 各々、やるべきことが見えたところで、ひとまず集会の号令をかけておくよ」

 そう言うとフォース学園長は自身の喉元へと手を当て、声を上げた。


『全校生徒、および全騎士に告ぐ。次のグローリアスの鐘が鳴る頃、グローリアス学園園庭に集まるように。繰り返す。次のグローリアスの鐘が鳴る頃、グローリアス学園園庭に集まるように』


 魔法でグローリアスと騎士団全体に広がったフォース学園長の声。

 これで次の鐘がなる頃には、園庭に皆が集まるだろう。


「さて……。僕も、やるべきことをしなきゃね……」


 そう呟かれた言葉に、私の中で瞬時にやるべきことが組み立てられていく。


 させねぇよ!!

 フォース学園長の考えは全て私がお見通しだからね!!


 でもとりあえずは目先の集会。

 そこで私は──……。

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