夫婦の部屋
3階まで上がって右手から奥に進むと、3つの白い扉が並んでいた。
手前の白い扉にはローズクォーツが。
真ん中の白い扉にはアクアマリンが。
1番奥の白い扉にはエメラルドが、装飾の中に嵌め込まれている。
「──ここだよ」
私たちは1番手前のローズクォーツが埋め込まれた白い扉の前で立ち止まると、フォース学園長によってゆっくりと扉が開かれ、飛び込んできた室内の様子に私は目をしぱしぱと瞬かせた。
「へ……? これ……」
桜色の壁紙。
窓辺には白い机と椅子が並べられ、机の上には数冊の本が立てられている。
反対側の白いドレッサーの隣には同じ色の猫足の可愛らしい洋服ダンス。
そして中央には、2人は裕に寝られそうな大きさのベッド。
その上に転がっているむっすりとした表情の先生の【等身大抱き枕】。
ここ──グローリアスの私の部屋!!
同じ装飾、色、もの。
何で……。
私が言葉を失っていると、フォース学園長が「驚いた?」とにっこりと笑った。
「君がこの世界に戻ってきて、学園の意思が整えた部屋。あれはこの部屋そのものだったんだよ。王と王妃が用意して3歳の君が使っていた部屋に、戻ってきた君の外見年齢に合わせた衣装と、君が必要とする本を揃えたんだ。あぁそれと、君がぐっすり眠れるように、
そんな。
それじゃ、最初から学園の意思は気づいていて、フォース学園長も早い段階でこうなることを分かっていたってこと?
何だか手のひらの上で転がされてるみたいで……。
「……フォース学園長、ちょっとしゃがんでもらっていいですか?」
「ん? なんだ──いぃぃっ!?」
私はしゃがんで目の前に降りてきたフォース学園長のほっぺを掴み、びみょーんと左右に引き伸ばした。
「なんかこうなることがわかってたみたいで腹が立ちます」
びみょーん。
「さっきの記憶改ざんだって、何様ですか」
びみょーん。
「エルフがなんですか。王が何ですか」
びみょーん。
「私は、私らしい王になるんです。そんな常識、くそくらえです」
視線を合わせてフォース学園長に吐き出せば、彼は目をパチパチと瞬かせてから、とろんと目尻を下げて微笑んだ。
「ん。それでこそヒメだよ」
どこか嬉しそうな、まるで孫の成長でも見るかのような笑顔に、私はもう一度、彼の頬をびみょーんと引っ張った。
「カンザキ、そろそろ手を離してやれ。顔が無惨だ」
チッ。
先生に言われちゃ仕方がない。
私が渋々フォース学園長の頬から手を離すと、彼はすりすりと自身の頬を摩りながら「と、まぁ、部屋自体は今までと同じ仕様だから、よろしく」と軽く言った。
「──ここで暮らすのはわかりましたけど……もうドアを開けても先生の部屋がないのは、何だかさびしいです」
「……君は卒業後もあの部屋に居座る気だったのか?」
「うっ……」
そうだ。
こんなことになろうがなるまいが、いつかはグローリアスの部屋から出なければならなかった。
永遠なんてないんだ。
寂しいけれど、仕方がない。
「と、まぁ君が寂しがるだろうと思って──……」
言いながらフォース学園長は私の部屋から一度出ると、向かいの部屋の黒い扉を開いた。
見覚えのある部屋の光景が広がる。
え……。
ここって……。
「先生の部屋!?」
大人っぽいグレーの壁紙に、隅っこにシングルサイズのベッド。
その隣には黒い革のソファ。
間違いなくグローリアス学園の先生の部屋が、そこに存在していた。
「君の部屋の中にある右側の扉から通じる隣の部屋が夫婦の寝室。で、そのまた隣が夫となる人の部屋だから、いずれはそっちにシリルの部屋も移るかもしれないけど、とりあえずはここで」
夫婦!? 夫!?
先生の部屋がそっちに移るかもって……え!?
「っ……。フォース学園長。気が早すぎます。彼女の婚約者はまだ未定のはずです」
あ、そうか。
早いうちに婚約者も決めなきゃいけないんだよね。
それに先生がなるかどうかはまだわからない。
諸々の状況を
「うん。まぁそうだけど……簡単に譲る気はないんだろう?」
フォース学園長がニヤりと笑って問いかければ、先生はほんのわずか眉をピクリと動かして「……無論です」と短く答えた。
先生と……夫婦……!!
分不相応ながらそうなれることを夢見て、私はもう一度私の部屋の隣のアクアマリンを見つめるのだった。
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