表へ出やがれ、です


「あらためまして。ヒメ・カンザキ・ヴァス・セイレと申します。皆様、お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」


「!?」

「なっ……!?」

 レオンティウス様、ジオルド君、レイヴン、先生以外のその場にいる者たちが、これ以上ないほどに目を見開いて私を凝視する。


「は、はは……冗談……」

「だと、思われますか?」

 グレイル隊長が信じられないと顔を引き釣らせるが、私はそれに至って冷静に返す。

 今私は神崎ヒメとして彼に接してはいけない。

 ヒメ・カンザキ・ヴァス・セイレとして接しなければならないのだ。


 父母という後ろ盾のない私が王になる。

 それは自分で思っていたよりもずっと大変なことで、侮ってかかるものも多いだろうという先生やジゼル先生の言葉が正しいのだと思う。

 今彼らの目の前にいるのは【ヒメ・カンザキ】という【女生徒】だと、そう思わせてはいけない。


『最初が肝心です。堂々となさってください』

 ジゼル先生の言葉が頭の中で繰り返される。


「だ、団長。冗談が過ぎます!! 姫君プリンシアは20歳と聞いております。こんなこどものはずが──!!」

「事情があって姫君プリンシアの【時】は少し狂っている。王位継承とともに王の力を継承すれば、20歳の元の姿に戻るはずだ」

 マーサ隊長が噛み付くも、先生は冷静に説明をしていく。

「事情、とは……いや、しかし……」

「俄には信じがたいですぞ」

 マーサ隊長、そしてガレル隊長はまだ納得できないようだ。

 このことに関してはグレイル隊長やジャン、セスター、フロルさんも同様に信じられないといった様子で表情を強張らせている。


 ピリピリとした空気の中、レオンティウス様が立ち上がると、私のところまで来て肩にポン、とその白くてすべすべの手を置いた。


「信じられないかもしれないけれど、正真正銘、私の可愛い従妹よ。もう私もレイヴンも、騎士の誓いは済ませているわ」

「!!」

 3大公爵家で姫君の従兄でもあるレオンティウス様の言葉に皆一様に息をのんだ。


「そういうことです。それでもまだ信じられませんか?」

「っ……」

 私はじっとマーサ隊長を見るも、彼女は眉間に皺を寄せるだけで、何も言わない。

 どこか悔しさの滲んだそれは、一瞬だけ先生を見て、また歪んだ。


 あぁ、わかってしまった。

 おそらく彼女は先生のことが好きだ。

 だから先生についてまわる私に、先生が目を向ける私に、敵意を向ける。

 でもそれは、私から目を背けて職務を放棄していい理由にはならない。


 私が小娘で、その力に信用性がないならば示せばいい。

 私はわざと不敵な笑みを浮かべると、彼女に、そして彼らに向けて言った。


「誓いに関しては先生──シリル・クロスフォード騎士団長にも誓いを受けています。彼は──私の護衛騎士になります」

「!!」


 暗に言う。

 先生はあなたたちの導き手でもなんでもない。

 私のものになったのだと。

 いつまでも先生に頼り切っていてもらっては困るのだと。

 

 先生を過労死させないためにも、各々の力を高めてもらわなくては。


「……もし彼女が姫君だとしても、こんな学生が、王家の力を備えているとは考えにくいのですが……」

 ボソリとつぶやいたのはガレル隊長。


 そうか。

 これが後ろ盾というものの力の影響。

 おそらく父母がいたならば、私は最初から守られるべき存在として、王族として信じてもらうことができたのだろう。

 でもそれがない今、できるのは一つだけ。


「い、いやガレル隊長、力なら──」

「そうですねぇ。こんな小娘が本当に王家の強さを持つのか、不信にもなりますよねぇ」


 私の力をよく知るグレイル隊長、ジャン、セスター、フロルさんは私の強さをよくわかっているけれど、ガレル隊長、それにマーサ隊長はほぼ関わりがない。

 少し強い女生徒くらいの感覚なのだろう。

 未だ不審な目を向けてくる彼らにわからせるためには、多少横暴でも力で示すしかない。


「なら──」


 私は彼らに不敵に笑いかける。


「表へ出やがれ、です」


 あぁ……。

 多分世の中の姫って、こういう言葉、使わない──。

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