ゲームとはなんぞ


「あ、あの、先生? 先生もお疲れでしょうし、お部屋で休んでもらっても──」

「私もフォース学園長には報告がある。ついでだ」

「うぐっ……」


 先生、意地でもついてくる気だ……!!

 聞かれて困る話をするわけではないんだけど、自分でも答えがわかっていないからこそ、聞かせることに少々抵抗がある。

 あぁでも、学園長、いるんだろうか。過去からこっちに戻ってきてから、フォース学園長はずっと忙しそうでなかなかゆっくり話ができていない。

 多分私の王位継承のことで色々と動いてくれてるんだろうけど……。


「あ……着いちゃった」

 そうこうしながらも、私たちは学園長室までたどり着いてしまった。

 仕方ない……腹を括るか。

 私は意を決して、大きくて重厚な学園長室の扉を叩いた。


「ヒメです。フォース学園長いらっしゃいますか?」

「はーい、どぉーぞー。シリルも待ってたよー」


 先生は一言もしゃべっていないにもかかわらず、背声がいることがわかるフォース学園長。さすが大賢者。

 それにしても……相変わらず緩いな。

 私と先生は一度顔を見合わせ目くばせすると、学園長室の扉をゆっくりと開いた。


「失礼しまーす」

「失礼します」


「やぁ二人とも、おかえり。なんだか久しぶりだね。まぁお座りよ」

 そう言って執務机から席を立って、にっこりとした笑顔で私たちにソファへ座るように勧める学園長。勧められるがままに私と先生が並んでソファへと座り、応接テーブルを挟んで目の前のソファにフォース学園長が腰を下ろした。


「学園長、学園旅行、全員無事に怪我なく帰還しました」

「うん、ご苦労様、シリル。怪我なく、ということは、ジュラシーラも難なく倒せたってことかな?」

 ジュラシーラ。

 初日に騎士科と私で倒した海のヌシだ。

 やっぱりあれは故意に倒さないままにしていたのね。


「はい。主にはカンザキやジオルドの知識と機転によって、ですが……。これから騎士科が重点的に学ぶべき課題は見えてきました」

 圧倒的に実践訓練が足りないんだろう。まだ一年生だから仕方がないことだけれど、今の情勢的にそうも言っていられないのが現状。

 先生達も辛い立場よね。

 でも、ここでの学びが誰かの命を、そして自分の命を守ることになる。

 騎士科の皆にもがんばってもらわないと。


「そっか。実りがあったようでよかったよ。ヒメ、旅行は楽しめたかい?」


「はい!! あ、これフォース学園長へのお土産です!!」

 私は拡張機能のついたポシェットからフォース学園長へのお土産の茶葉を取り出すと、学園長へと手渡した。

「おや、これは【ドムの茶葉】だね」

「はい!! 眼精疲労に効くらしくて。フォース学園長、最近目が疲れるって言ってたから」

 先生曰く老眼らしいけれど。……効く……わよね?


「大切に使わせてもらうよ。最近忙しすぎて目が霞んできてねぇ。本当、僕の可愛い子は優しいね。ありがとう、ヒメ」

 そう言って穏やかに目を細める学園長に妙に照れ臭くなった私は、ふへへ、とはにかむ。

 見た目はショタなのに、お父さんかおじいちゃんに褒められるような感覚になるんだよね、フォース学園長に褒められると。2000年も生きてきたからこその、この安心感なんだろうか。


「……」

「シリルー、やきもち焼いてちゃ嫌われるよー」

「っ、誰が!!」

「先生を嫌いになるとか100%ないんで、思う存分お餅焼いてください!!」

 むしろウェルカム!!

「……はぁ……」

 ため息!?


「あっはは!! 相変わらずだね、君たちは」

 フォース学園長は声をあげて笑うと今度は目を細めて私たちをじっと見つめた。

「で? ここへきたのは、お土産を渡すためだけじゃないんだろう?」

 やっぱり気づいてたんだ。

 私の目的。

「はい。……あの……」

 私はチラリと横目で先生を見てから、一度深呼吸をして彼に疑問をぶつけた。


「私が知っている話と、私が今たどっている話の相違が多くて……」

「そうい?」

 この世界とあちらでの景色の大きな相違に気づいてしまったら、もう止まらなくなってしまった。何もかもが偽りのようで、自分の存在すらも疑問に思えてくる。

 早く解決してこの靄を払って欲しい。

 その一心で私は続ける。


「はい。私が知ってるゲームの情報と、この世界が少しずつ違っていて──」


 私が言った言葉に、フォース学園長が笑顔のまま動きを止めた。

 そして──。



「んー……とりあえず──……ゲームって……何?」


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