次期クロスフォード公爵


「よーし皆、ちゃんと荷物整理して、今日はゆっくり休めよー。明日からまた、実践向き授業でビシバシいくからな!! 解散!!」


 行きと同じように転移陣で一斉転移をしてグローリアスに帰ってきた私たち。

 学園に着いたと同時に肩がスッと軽くなって、とても安心感に包まれる。

 やっぱりこの学園が私の家なんだなぁ。

 三日間という短い旅行だったのに、なんだかもう何日も学園にいなかったようにも感じられる。

 

「皆はお土産持って一度家に帰るんですか?」

「まさか!! 流石に疲れたもの。手紙や荷物輸送用の簡易転移陣マットが寮に設置されてるから、それで送るわ」

 手紙や荷物を送る用の簡易転移陣かぁ。

 寮ってそんなものまであるのね。便利。

「ヒメはクロスフォード先生のお部屋に帰りますの?」

 語弊!!

「先生の部屋の先の、私の部屋、ですからね!?」

 何その同棲してますみたいなの!?

 いや、まぁ半同棲みたいなものだけど……。

「コホンッ、私はフォース学園長達にお土産を渡してから戻るつもりですよ」

 もちろんレオンティウス様達にも。

 早くお土産を渡したいという理由もあるけど、1番の理由は私が顔を見たいからなんだよね。

 ホームシックにでもなっちゃったんだろうか。


「そっか。渡し終わったらしっかり休めよ? また明日なー」

 ニカッと白い歯をのぞかせながら爽やかにマローが笑って、私もそれに笑顔で手を振り、皆それぞれに挨拶をしてから解散した。

 楽しい旅行だったとはいえ皆さすがに疲れたのだろう、だらけた身体を引き摺るようにしてそれぞれ寮へと帰っていった。


 さて、私は学園長室に──。


「ジオルド」

 部屋へ向かおうとする私の耳に愛しの先生の美声が通り抜け、思わず耳を傾け静止した。

「少しいいか? 話がある」

 話?

 先生がジオルド君を個別に呼び出すなんて珍しい。

「わかりました」

 短く返事をしてから、ジオルド君は先生について寮へ向かう生徒たちとは反対側へと歩いて行ってしまった。


 これは──……つける、しかないよね……!! ジオルド君の保護者としては……!!

 私は気配を消しつつ、こっそりと二人の後をつけていった。



 ──騎士団訓練場の隅っこの木陰。

 もうすっかりと色づいた葉が風に揺られ、その下では美しい男性が二人顔を見合わせている。


 あやしい。あやしすぎる……。

 私は壁に張り付いて、ちらりと様子を伺う。

 変質者ではない。断じて。


「ジオルド。カンザキのことだが……」

 私!?

 思わぬところで出た自分の名前にビクリと肩を跳ね上がらせる。


「ヒメの?」

「あぁ。お前も知っての通り、これから彼女は王位を継ぐことになる」

「!!」

 そうだ。ここからが本番なんだ。

 ……忙しくなる、よね、絶対。

 正直、まだ何をどうすればいいのかもわかってないんだけれども……。


「私も、王家に仕えるクロスフォードの人間として、彼女の護衛騎士として仕えることになるのだが──」

 先生が──私の護衛騎士!?

 そ、そうよね。

 クロスフォード家は代々王族の護衛騎士を務めてるんだもんね。

 当然といえば当然だけど、でも──先生、過労死コースまっしぐらじゃない!?

 それは困る……!!

 こんなところで死なせてなるものですか!!


「だが、流石にグローリアスの教師に騎士団長、公爵家当主、その上護衛騎士となると、体が少し足りないことになる」

 いや少しじゃないから!!

 かなり足りないから!!

 すでに今の時点でオーバーしてるから気づいて!!


「そこで公爵位を、お前に譲ろうと思う」

「!! クロスフォード公爵家を……? で、ですが……やはり僕は……」

「半分しか血の繋がりがない、と? まだそんなことを考えていたのか?」

「っ……はい……」


 口差がない人たちは、いまだにジオルド君について色々と噂する人もいる。そんなものは気にしないように振る舞っているけれど……やっぱり気にしてたんだ、ジオルド君。

 どこからどう見ても、ジオルド君はクロスフォードの人間に相応しいと思うんだけどなぁ。

 俯くジオルド君に、先生はため息を一つつくと、その華奢な肩に手を置いて真っ直ぐに彼を見つめた。


「誰がなんと言おうと、お前は高潔なるクロスフォードの人間だ。自信を持て」

「兄上……」


 五年前のあの時からジオルド君に歩み寄って来た先生。以前はお互いに気を使いすぎて離れてしまっていた二人の関係も、今では本当の兄弟にしか見えない。

 あぁでも、公爵位を継ぐってなると、そっちの仕事で忙しくなるのよね。

 そのせいでジオルド君の残りの学生生活が潰れてしまうのは嫌だ。

 先生だって、学生の時にシルヴァ様が亡くなって、自分が早くに公爵位を継ぐことになって苦労したから、同じ気持ちのはずなのに……私のせい、だよね。


「公爵位を譲り渡すについてだが──」


「待ってください!!」


 気づけば私は、先生の言葉を遮って、二人の前へと飛び出していた。

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