学園旅行〜船上レストランと知らぬ間の計画〜


 キラキラと輝く魔石が連なるシャンデリア。

 たくさんのテーブルの上には美味しそうなオードブルや、可愛らしいケーキの数々。

 音楽隊の生演奏による優雅な音楽が、会場の雰囲気を演出している。


 生徒が全員入場したのを待ってから、船は先ほど出港した。


 Sクラスや騎士科の貴族にとっては慣れたパーティの光景も、平民クラスであるAクラスの生徒たちには新鮮なようで、興奮したように目を輝かせてキョロキョロとあたりを見回っている。


 そのうちの一人、昨日お友達になったカイと目が合うと、彼は照れ臭そうに頬を染めて、笑顔で手を振ってくれた。

 うん、良い人だ。

 私もにっこりと笑って手を振り返す。


「感じの良い人じゃない。付き合ってみたら?」

「だから、無理なんですって」

「強情ね、あんたも」


 先生への思いを断ち切るのと私が他の人と付き合うのは話が別だ。

 どっちみち誰とも付き合う気はない。

 これから自分がどうなるのかさえもよくわかってないんだから。


「ヒメ、何処の馬の骨ともわからん奴など、相手にするな」

「ジオルド君。いや、何処の馬の骨ともわからん奴って……同級生ですよ、カイも」


 相変わらずだな、うちのツンデレ過保護お義兄ちゃんは。

 いや、もはやお父さんか……。

 それにしても……うん、イケメン。

 カッチリとした黒いジャケットに、きっちりとセットされたブロンドの髪。

 どこからどう見ても貴公子然りとしたジオルド君。

 さすが先生の義弟だ。

 女子の視線が集まるのも無理はない。


 そしてもう一人、女子の視線を集めているのは──。


「クロスフォード先生素敵……!!」

「こういう場はやっぱり彼の方がいると映えるわよね……!!」


 そう、先生だ。


 白いシャツの上に、銀糸で刺繍が施された黒のベスト姿。

 そして何より、いつものマントは羽織らない身軽な服装……!!

 何これうちの推し最強か……!!


 腕に絡みつくラティスさんさえいなければずっと眺めていたいくらいカッコいい。


「よぉヒメ!! こっちにうまいもんいっぱいあるぞ!!」

 大皿ごと両手で抱えたアステルがにこやかにやってきた。

「わぁ、美味しそうなチキン……!!」

「アステル……いないと思ったらもうこんなに……」

 頬をひくつかせてジオルド君がアステルをじっとりと見やる。

「は、はは、良いじゃんよ。ほらヒメ、こんなところにいるよりも、あっちに行こうぜ!!」


 こんなところ……。

 うん、そうかもしれない。

 ここで先生が女の子たちに囲まれるのを見てモヤモヤするよりも、せっかくの船上レストランだし、たくさん食べなきゃね。


「そうですね!! たくさん食べて、いろいろ忘れましょ!!」

 私はクレアとメルヴィを引っ張って、料理の並ぶ会場脇へと進んだ。


 チキンに魚にサラダにサンドウィッチに、焼きたてのパンにケーキ……!!

 バイキング最高……!!

 何から食べようかな?


「あ!! カップケーキ!!  お花の飾りがついててとっても可愛いですね!! あぁっ、こっちのチョコケーキも!!」

 こうなりゃやけ食いよ!!

 どんどん取ってどんどん食べてやるっ!!

 私の皿はあっという間にケーキに埋め尽くされていった。


「お、ヒメ発見」

「わぁ……胃もたれしそう……」

 私の皿を見てウゲェ、と顔を歪めるのはジャンとセスター。


「二人とも警備ご苦労様でした」

「ん。つっても、学生たちと楽しく満喫してるけどな」

 よく見るとジャンの皿の上には大量のパスタ、セスターの皿の上には大量のお肉が乗っかっている。

 うん、二人とも楽しそうで何より。


「あ、それより、シード魔術師長がお前に話があるから呼んでこいってさ。なんでも急ぎの用だから、甲板まですぐに来てくれって」

「レイヴンが?」


 なんだろう?

 急ぎってことは、何か問題でも起こったのかな?

「わかりました。すぐに行きます。クレア、メルヴィ、ちょっと行ってきますね」


「あいよー」

「ごゆっくりー」

 なんだろう、二人とも妙にニタニタして……嬉しそう?


 そんなにご馳走食べるのが嬉しいのかな?


 疑問に思いながらも、私は甲板へと急いだ。

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