学園旅行〜モテ期ですか!?〜



「さぁて、お腹もいっぱいになったし泳ぎますか!!」


 皆で作ったカレーはとっても美味しかった。

 先生と一緒に刻んだお野菜は、色・艶・形、味、全てにおいて申し分なかったし……!!

 私はそれはもう大切に噛み締めながらお腹の中へと入れていった。


「なんていうかヒメってさ、意外性の塊だよな」

「そうですか?」

「俺、ヒメがあんな泳ぎが上手いなんて思わなかったし」

 マローが水着の上に着ていたパーカーを脱ぐのに続いて、私も上着を脱いで丁寧に畳んでシートの上に置く。

 先生のだから大切にしないと。


「私、海のかっぱと言われてましたからね!!」

「何だカッパって」

「嘘ですけどね!!」

「嘘なのかよ!!」


 アステル、ナイスツッコミ!!

 カッパなんて言ってくれる友達なんていなかったからね!!

 ……言ってて悲しくなってきた。


「僕もお前があんな料理が得意だなんて意外だった」

「私はジオルド君があんなに料理が下手だなんて意外すぎましたよ」

 本当。

 誰にだって得手不得手があるんだなって、ちょっと安心したわ。


「あれ、メルヴィとラウルは行かないんですか?」

 シートの上に2人で座って微笑ましそうに私たちを眺める熟年夫婦……いやカップル。


「ええ。少し疲れたので、ここで待っていますわ」

「僕も、メルヴェラとお話しでもして待っていますから、楽しんできてください」

 おっとり癒し系カップル!!

 推せる……!!

 良いなぁ、ラブラブカップル……!!


「わかりました!! 行ってきますね!!」

 2人に笑顔を向けて、私が海に向かおうとしたその時。


「あ、あの!!」

「はい?」


 この人──誰?

 見知らぬ男子に声をかけられてしまった。

 多分、グローリアス学園の子、よね?

 私が知らないってことは、騎士科かAクラス?


「少しお話、いいですか? ヒメ・カンザキさん」

「はぁ、いいですよ」

 表情が硬い。

 何かあったのかな?

 まさかまた魔物でも?


「皆さーん!! 私少し行ってくるので、遊んでてくださーい!!」

 私は先に海に行ったクレア達に声をかけると、彼女達もそれに気づいて手をあげて応えた。


「いきましょうか、学生その1さん」

「が、学生その1さん? は、はい」




 ──連れてこられたのは海岸から少し村に上がったところ。

 皆海辺や村の散策に行っているみたいで、周りには誰もいない。


「で、私に何か? えっと……学生その1さん」

「Aクラスのカイです。すみません、こんなところまで来てもらって」


 あ、やっぱりAクラス。

 普段Aクラスとは一緒に授業を受けることがないから、接点はないんだけど、よく私のこと知ってたな、この人。

「カイさん、ですね。で、何か私に用でも?」

 私がたずねると、カイさんは緊張した面持ちで私をまっすぐに見てこう告げた。


「俺、ヒメさんが好きです!! つ、付き合ってください!!」


 ……Why?

 ツキアッテ?

 スキデス?


「……」

「……」

 しばらく何が起こったのか分からずポカンと彼を見つめ続けて、そして──。


「えぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


 私の雄叫びが木霊した。

 突然に繰り出された私の大声に何事かと振り返る、海で遊ぶグローリアス生達。


「す、すみません急に。驚きましたよね」

「い、いえ……」

 まさか告白されるなんて思ってなかった。

 魔物退治のお願いか、タイマン勝負でもふっかけられるものだと……。


「でも、私あなたと話したこと無いですよね? あ、あれですか? ドッキリですか!?」

 キョロキョロと辺りを見回すも、仲間らしき人の人影はない。

「ち、違いますよ!! 俺、入学式の時からずっと気になってて……。教室も離れてるから普段なかなか会えないけど、ずっと話してみたかったんです。それで……」

 話す前に告っちゃったのね。

 とりあえずドッキリとかじゃないなら、ちゃんと答えないと。


「そうでしたか。……でもすみません。私、あなたの想いには応えられません」

 答えは決まっているもの。

 考えるまでもなく、私は断るしかない。

 私の【愛してる】は嘘でも他の誰かにあげられるものじゃないから。

 期待を持たせるわけにはいかない。

 だから私はキッパリと秒殺するしかない。


「そうですか……。わかりました。ありがとう」

「お役に立てずにすみません。でも……その、好きになってくれてありがとうございます」

 私が言うと、カイさんは頬を染めてから穏やかに笑い返してくれた。


「あぁでも、その、友達になってもらえませんか? 俺、やっぱり友達にぐらいはなりたいし……」

「はい。それはもちろん。Aクラスの皆さんともお話してみたかったので大歓迎です。話し方もいつも通りで構いませんよ」


 これからのことを考えて、Sクラスだけが力をつけるわけにはいかない。

 Aクラスもまとめて、訓練はしていきたいのよね。


「!! よかった……!! あの……ヒメ。あらためて友達として……よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

 拳と拳で語り合ったわけじゃないけれど、思わぬところで新しいお友達ができました。


 その後私は二度、同じように呼び出しを受け、告白されることになったけれど、どれも同じ返事しかできなかった。

 断るにも気力っているのね。

 どっと疲れたわ。


 ていうか、なんで!?

 なんでいきなりモテ期!?

 はっ……!!

 やっぱりこれ、何かの罰ゲームとかドッキリで告白されてるだけなんじゃ……。


 うぅっ……分からん。

 学生諸君のノリが分からん……!!


 最終的に疑心暗鬼になった私は、ただただ1人頭を抱え続けるのだった。

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