先生は人間氷枕です
ひんやりと冷たい“ナニカ”が私の頰にぴったりとくっついて、とっても気持ち良い。
思わず擦り寄るようにそれに手を添え顔をすりすりと動かす。
「っ……!!」
誰かのハッとする息遣いがして、私はまだ重い瞼をこじ開けた。
「んっ……あれ……」
「起きたか?」
目の前に、私が大好きなアイスブルーの瞳……。
「せん……せ……?」
思ったよりも近い距離に先生の顔があって、飛び起きようとするけれど身体が起き上がらない。
さっきまでよりも身体が熱い。
熱、上がってるのかな。
それにしてもほっぺたが冷たくて気持ちいい。
すりすり……。
「っはぁ……はぁっ……気持ち……良い」
「……っ……君は……」
眉間にこれでもかというほど皺を寄せて、呆れたように呟いた先生は、なんだか少しだけ血色が良いみたい。
「はぁっ……せん……せ……熱い……っ」
「──なら……」
「ひゃぁっ!?」
ベッド脇に座っていた先生は、自身のマントを取ってソファへと投げると、突然私に覆い被さるようにして倒れ込み、手を回すと、そのまま一気に私の身体を抱き上げた。
な……な……何!?
一気に目覚めた思考が瞬時に何が起こっているのかを視覚と感触から取り込み、脳内で仕事し始める。
ベッドで座った状態で、先生に抱きしめられている──。
「あ……あぁぁあの!! 先生!?」
「どうした? 熱いのだろう? 氷魔法で全身を冷やしているのだが……足りないか?」
……は!?
あ、あぁ……そういうこと……。
先生の体を氷魔法で冷やして、人間氷抱き枕になってくれてるってこと……?
いやいやいやいや!!
サービスしすぎでしょ先生!!
「せ、先生!! はぁっ……私、大丈夫ですから……っ!! そ、その、寒いでしょう?」
「いや、自分の魔法だから全く。私のことはいいから、しばらくこのままおとなしくしていなさい」
トントン、と先生の大きな手が私の背を
ま、まさか……さっきまで私のほっぺにあった冷たい感触って……先生の手!?
なのに私……すりすりって……!!
今更ながらに自分の好意に恥ずかしさが襲ってくる。
「ん? どうした?」
体を硬くしたまま黙り込んだ私を不思議に思ったのか、先生は少しだけ私を抱きしめる力を緩めると、あろうことかその端正な顔で私を覗き込んだ。
「っ……はぁ……あんまり……っは……近づいたら……っ……だめですっ……!! っはぁっ……かっこ良すぎて……はぁっ……熱、……上がっちゃう……っ!!」
視線を逸らしながら言うとともに、発熱からか生理的な涙が浮かんでくる。
「っ……君は本当に……。いつもしつこく付き纏ってきたり、恥ずかしげもなく好きだ好きだと言うくせに、こんな時だけ何故これなんだ……?」
「せ、先生がカッコ良すぎるから……っですっ……!!」
推してる時と現実で関わるとでは免疫が違うんです!!
「全く……おそらく最後の悪あがきで熱が高くなっていんだろう。時期下がるはずだ。今はつらいだろうが、耐えろ」
「っはぁ……っ……はぁっ……はいっ……!!」
「それまでこうしているから──」
余計に熱が上がりそうです……!!
しばらく先生は何も言うことなく私を抱きしめていた。
少しずつ楽になっていく身体の熱。
呼吸も整ってきたところで、私はゆっくりと口を開いた。
「あの……先生……?」
「ん?」
「私……すぐに結婚することになったりするんでしょうか……?」
「…………は?」
落ち着いた呼吸を維持しながら、少しだけ先生から身体を離して問いかける。
すると帰ってきたものはおおよそ先生らしくない少し抜けた声だった。
「さっきレイヴンとそう言う話をしていて……その……レイヴンが……」
「!! まさかあの万年発情犬に何かされたか!?」
先生までレイヴンの扱いが……!!
「い、いえ!! ただ、今フリーだから、未来の旦那にどうかって……」
「あいつ……」
低く唸って一瞬だけ瞳を鋭く尖らせると、すぐに先生は無表情を装い、私に向き直った。
「確かに、婚約をどうするか、と言う話は出た」
「!!」
出たんだ。
じゃぁやっぱり、元老院とかそこらのおじさんたちが私の婚約者を決めるのかな?
……ちょっと嫌だ。
「だが、今はその時じゃない。まだ先の話だ」
「……これからの情勢による、ってことですね?」
グレミア公国や周辺諸国との状態次第で、私の出方も変わる。
私が国同士の結びつきのために他国から王子を迎え入れる可能性だって……。
「……あぁ」
否定して欲しかった気持ちが全くなかったと言ったら嘘になるけれど、やっぱり肯定されるときつい。
さっきまで幸せな夢を見ていたから、余計に。
「だが……みすみすくれてやる気はない」
「え?」
私が驚いて先生を見つめ返すと、冬色の瞳と重なった。
「君を、そう簡単にやるつもりはない」
「!!」
そ、それはお父さん的な──保護者目線で?
それとも──……。
胸の鼓動が速くなるのは、きっと熱のせいだけじゃなくて……。
私はごくりと喉を鳴らす。
「あ、あの、それって──っ!?」
瞬時に腕が引かれ、私は先生の腕の中へと舞い戻った。
冷たくて気持ちがいい。
「絶対に……もう……」
私の頬に先生の筋張った手が添えられ、だんだんと近づく若干熱を孕んだようなアイスブルーに、私はきゅっと目を閉じた──……。
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