リーシャ王妃とレオンティウス
コン、コン──。
ジオルド君が出ていってすぐに、控えめなノック音が部屋に響く。
誰だろう?
この部屋にノックして入る人って。
もはやノーノックで突撃されすぎて、ノックされると逆に誰だかわからないんだけど。
「ヒメ、私よ」
「!! レオンティウス様!?」
どこか色気を含んだ声が扉越しに聞こえて、私は思わず声をあげる。
あのノックなしで突撃してくる人物の代表格であるレオンティウス様が……ノックをした……だと!?
明日は雨だ。
うん、間違いない。
「どうぞ、開いてますよ」
私が返事をすると、ゆっくりと扉を開けて、麗しのオネエ──レオンティウス様が姿を現した。
「体調はどう? ヒメ」
ベッド脇に腰掛け心配そうに私を見下ろすレオンティウス様。
「まだ身体がだるくて……。このままですみません」
「いいのよ。そのまま寝てなさい。むしろ起き上がったら押し倒してやるんだから。ちょうどお誂え向きにベッドがあるし。私は別にそれでもいいけど、一応過労で熱出してる人間を襲うなんて非常識なことはしないつもりよ」
この人他人のベッドで何しようとしてんの!?
さすが【グローリアスの歩く18禁】。
恐るべし。
「ま、それは半分冗談として……、ほんと、ちゃんと横になってなさい。心配だから」
眉を下げて私の頭をそっと撫でるレオンティウス様。
なんだろう、この感じ。
ひどく懐かしくて、胸が苦しい。
リーシャ王妃の顔とよく似ているからかな?
すごく落ち着く。
まじまじとレオンティウス様の顔を見つめる。
本当、よく似てる。
なんでこの美貌が私に遺伝しなかったんだ。
くそぅ。
「プフッ。なぁに? そんなに私の顔が好き?」
「はっ!! ご、ごめんなさい!! つい……」
いくらなんでもこんなじっくり見ちゃうなんて、失礼よね。
「いいのよ。でもどうしたの? 泣きそうな顔してたけど。……もしかして本当に泣くほど私の顔が好きだった?」
冗談めかして言うレオンティウス様の顔が、やっぱりリーシャ王妃と被って、私の胸がまた締め付けられる。
「その……笑わないでくださいね?」
「ん? えぇ」
レオンティウス様の返事を聞いてから、私は少しだけ視線を伏せて口を開く。
「……恋しく、なってしまったんです」
「恋しく?」
「はい。レオンティウス様の顔が、リーシャ王妃に──私の実の母親にそっくりだったので……」
女の人とそっくりって言われるって複雑だよね、きっと。
そう思いながらもチラリと盗み見たレオンティウス様の表情は、とっても穏やかな優しい顔をしていた。
「私と王妃様は本当によく似てるものね。昔は髪も短かったからそこまでではなかったけど、伸びた今では多分瓜二つよ。でもあなた、王妃様の顔、覚えてるの?」
本当に瓜二つだ。
私が実の子だと言われるよりも、レオンティウス様が王妃様の子だと言われた方が納得いくレベルで。
私はロイド国王似か……くそぅ。
「覚えてはないんですけど……。さっき寝ていた時に夢を見て……。私の中に残った王と王妃の【魔力の残骸】のせいで現れたんです、2人が。それで少し、話ができて……」
「【魔力の残骸】? すごいわね。さすが王家の魔力。死してなお残るなんて……。でもそっか……。それで私を見て、甘えたくなったってことね」
甘えたく──!?
「そ、そう言うわけじゃ……」
「いいのよ、甘えなさいな。私をママだと思って、この胸に飛び込んできなさいっ!!」
バッ!! と両手を広げて私を受け止めようとするレオンティウス様。
キラキラと目を加賀屋変えて私を見る姿、もはや気分はママンだ。
「えっと……、せっかくですけど、遠慮しますね!!」
「え〜〜〜〜っ。甘えて欲しかったのにぃ〜」
そんな口を尖らせて語尾伸ばしても甘えません。
絶対に。
先生になら甘えたいけれども!!
「ま、甘えて欲しいのは本当よ。あんた、甘えなさすぎだもの。たまには年上に甘えなさい」
「!! ……はい、ありがとうございます」
「あ、そうそう、私、医務室でアステア先生から妖精族秘伝の体力回復薬もらってきたのよ。ちゃんっっっと、飲みなさいね?」
レオンティウス様は良い笑顔でマントの内ポケットから小瓶を取り出すと、サイドテーブルに置きながら私に釘を刺す。
あれすっごくまずいのよね……。
ドブ水飲んでるみたいな……。
だから自分で治癒魔法かけながら
やっぱり治癒魔法の効かない体質って不便。
まぁ、魔法薬である体力回復薬も、私にはそこまで効くわけではないんだけれど……。
「嫌なら私が口移しで飲ませてあげるわよ?」
「飲みます!! 自分で!!」
何その色気!!
男のレオンティウス様でこれだけの色気を毎日ダダ漏れにしているんだから、女性であるリーシャ王妃の色気って一体どれ程の破壊力だったんだろう……。。
そしてなんんでそれを受け継がなかった!? 私!!
「ふふ、照れなくて良いのに。あ、そういえば、レイヴンも後で行くって言ってたからそろそろ突撃してくるかもね」
「レイヴンが?」
ノック無し常習犯その2が──!?
「か、覚悟しときます」
「えぇ、襲われないようにね。最近すっかり女性と遊ばなくなったみたいだから、気をつけなさい」
「はい!?」
何言っちゃってんのこの人!?
「じゃ、ゆっくり休みなさいね。──ぁ……」
手をひらひらと振りながら扉に手をかけたレオンティウス様が、小さく声をあげてぴたりと動きを止めた。
そしてこちらを振り返ることなく言葉を続けた。
「王と王妃は──自分たちを殺した犯人について、【何か】言っていた?」
さっきまでの声色とは全く違う抑揚のない声。
どうしたんだろう、レオンティウス様。
なんだか少し声が固い気がする。
「えっと、いいえ。聞いたんですけど、犯人が誰かとかは……。ただ──」
「ただ?」
「『【あの子】を、憎むことなく救ってあげて』って……」
「っ!! ……そう。わかったわ。ありがとう」
表情の見えないレオンティウス様の声が少しだけ緩んで、こちらを振り返る。
いつものレオンティウス様の顔だ。
「変なこと聞いてごめんなさいね。じゃ、私はいくわね」
色気をダダ漏れにさせた笑顔を向けて、レオンティウス様は静かに扉を閉めた。
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