私のうさぎちゃん
「ん……」
ふかふかのベッドの上で寝返りを打つと同時に左手に違和感を感じて、まだ重い
「!!」
繋がれている。
私の左手に繋がれた手の先には、瞳閉じた状態で椅子に座る先生の姿。
「〜〜っ!!」
思わず声が出そうになって、私は急いで片手で口を押さえた。
私の手を取ったまま……先生が……あの先生が眠ってる──!?
何のご褒美!?
や、やばい……好き……!!
私が1人ベッドの上で悶えていると、「ん……」と先生の声が漏れ出し、ゆっくりとアイスブルーが開かれた。
「せ……先生?」
恐る恐る声をかけてみる。
「!! ……あぁ……、おはよう、カンザキ」
一瞬驚いたような表情を見せてからすぐに安心したかのように頬を緩める先生。
甘ぁ〜〜〜〜いっ!!
声が……!! 声が甘い!!
「あぁ、もうこんな時間か。騎士団に行かねば……」
壁にかかった時計を見上げて言うと、私の手を離して先生がたち上がる。
気怠げなその表情が妙に色っぽくて、思わず見入ってしまう。
……って、見入ってる場合じゃない!!
私も授業があるんだった!!
私が急いで布団から出ようとすると、先生の黒い手袋に覆われた手が私の頭の上にポンと置かれ動きを静止させた。
「今日はもう1日休みなさい。──君には会わねばならん者がいるだろう」
ぁ……。
──レオンティウス様。
彼ともきちんと話をしなきゃいけない。
「そうですね。私支度してきます!!」
私は布団から抜け出すと、自分の部屋へと戻り、私服に着替えてから先生とともに騎士団本部へと向かった。
この時間は1番隊は早朝訓練中だという先生の話通り、彼は騎士団本部の訓練場にいた。
長いウェーブのかかったプラチナブロンドの髪を振り乱しながら、剣の稽古に励むレオンティウス様。
真剣な顔つきで剣を交えるレオンティウス様だけど、やっぱり少しやつれたように見える。
剣を振り上げ、相手の騎士の剣へと振り下ろしたその時不意にそのサファイア色の瞳と目があった。
「ヒメ……!!」
私に気づいた途端、剣を
「会いたかった……!!」
と私をきつく抱きしめた。
「ごめん……ごめんね、ヒメ」
縋るように顔をぐりぐりと私の頭に擦り付けるレオンティウス様に、呆れたように先生は「レオンティウス」と彼の名を読んだ。
「あ、ごめんなさい」
「はぁ……。訓練は変わってやる。彼女と話をしてこい」
先生が言うと、レオンティウス様はわずかに眉を下げながら「ありがとう」と静かに言うと、私の手を取り「いきましょ」と訓練場を後にした。
手が繋がれたまま、お互い無言で歩き続け聖域を通り過ぎ、森を抜けその奥へとやってきた。
今、私の目の前には、大きな白いお城が
生徒も騎士も立ち入りを許されていない場所。
──セイレ城……。
「……本当に……あんたなのよね? ヒメ? あんたが……その……」
「
遠慮がちに尋ねられたその言葉に、私が言葉を返した刹那、レオンティウス様が「っ……はぁ〜〜〜〜〜〜〜……」と深い息をつきながらその場にしゃがみ込んだ。
「生きててくれた……!! 私の宝物が……生きて──!!」
レオンティウス様の目に滲んだ涙が、だんだんと大きくなり、やがてぽろりとほおを伝って流れた。
私はそんな彼を、ぎゅっと包み込むように抱きしめた。
「心配かけてごめんなさい。私……レオンティウス様からも逃げてしまいました。レオンティウス様が見ているのは私ではなくて、
なんて支離滅裂な悩みなんだろう。
だけどあの時の私にはどこか他人のようにしか感じられなかった。
だって覚えていないんだから。
でも、過去に行って、落ち着いて日々を過ごして、私の中の記憶のカケラに気づくことができた。
私は私だ。
ただのヒメであり、
その中に、レオンティウス様は確かに存在した。
「……うん。ごめん。不安にさせたわね。……確かに、私はずっと、
そう言って、今度はレオンティウス様が私を抱きしめた。
花のような甘い香りにふわりと埋もれる私。
そして彼は、震える声を絞り出す。
「生きててくれて……ありがとう……。──私のうさぎちゃん──」
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