私と彼の1週間ー7日目ーあの日私を生かしたものー
「
改まった様子でシルヴァ様が立ち上がり、そして恭しく片膝をついてその場に伏した。
「シルヴァ様!?」
「あの日、護衛騎士でありながらあなたを──そして国王夫妻をお助けすることができず、本当に申し訳ありませんでした」
そのまま
「ちょっ!! 何やってんです!! シルヴァ様のせいじゃ──」
「いいえ……!! 私があの日、お側を離れなければ、こんなことにはならなかった」
くしゃりと歪んだシルヴァ様の顔。
これでもかというほどに奥歯を噛み締め、爪が食い込むほどに自身の手を握りしめている。
「あの日。あなたとシリルの顔合わせを終え、私はあなたやロイド、リーシャを王の間へ、シリルを、駄々をこねてついてきたらしいエリーゼのいる客間へと送り届けた。だが部屋にエリーゼはいなかった。私はシリルを客間で待たせ、エリーゼを探した。そして王の間から
覚えていないということは幸せだと思う。
もし彼のように覚えていたならば、後悔や苦しみ、悲しみ、憎しみ……色々な感情に押しつぶされていたと思う。
「シルヴァ様は見たんですか? 犯人を……」
彼の手を引き立ち上がらせながら、震える声で私は尋ねる。
エリーゼは見ていないと言っていた。
ではシルヴァ様は?
知りたい。
一体あの日、何が起きたの?
「いや、見ていない。エリーゼに聞いても彼女も気が動転していたから何も覚えてはいなかった。記憶再生術を施したが、肝心な部分だけはぽっかりと開いていたようだ。王は誰よりも強い力を持っていた。そんな彼を
そっか。
仕方ない。
でもいつかはあの日何があったのか、誰が私の本当の両親を手にかけたのか、知りたいと思う。
「あの、でもなんで私が姫君だって? いくら名前を知っていて、国王と似ているとはいえ、死んだと言われていた人物ですよ? 普通、これ
しかも小さい頃は感情と魔力のコントロールができないから、目の色が赤かったって事だし。
もしかして生まれた直後のまだ桜色だった目を見たとか!?
まさかの騎士団長による立ち会い出産!?
いやぁぁぁぁぁ!!
すると私の顔色で何を考えているのか悟ったシルヴァ様は、喉の奥で笑いを押し殺すようにクックと笑ってから口を開いた。
「生まれた時にあなたを見ることができたのは、ご両親とフォース学園長だけだ。安心なさい」
そ、そっか。
よかった。
こんな美形にあられもない姿を見られたとか恥ずかしいもの。
「あぁ……だが、オムツ替えはよくさせられたから同じか」
なお悪いわ!!
シルヴァ様に何させてんの親!!
恥ずかしさと衝撃に顔を熱くして口をハクハクさせる。
「ははっ。私があなたのことに気づいたのは、本当にそっくりだったというのもあるが、あなたが生きているのではないかと感じていたから、でもある」
私が生きていたと?
パルテ先生やジゼル先生ですら死んだと思っていたのに?
「私の得意な魔法は知っているだろう?」
「え? あ、はい。一斉転移ですよね?」
あの人数を一斉に転移させた光景は今思い出しても興奮する。
便利よね、あの魔法。
私もやってみたいけど……転移魔法の素質がないから無理だな、うん。
自分一人を転移させるので精一杯。
「あの力を込めた腕輪を、ロイドとリーシャに渡していたんだ。いざという時にはそれに魔力を流し、転移して逃げるようにと。それを使ったであろう魔力波を僅かに感じた。元は私の魔力だから、私にしかわからなかったんだろう。彼らが自分たちだけ助かって、娘を見捨てることはありえない。とすれば……その娘のために二人は自分の腕輪の力を使ったのだろうと考えた。ここではないどこかへと飛ばしたのではないか──と」
世界を超えるとなると膨大な魔力が必要になるはずだ。
となれば、膨大な魔力を秘めたであろう二つの腕輪があったからこそ、私は生かされた──。
私は王と王妃、そしてシルヴァ様、3人の大人によって生かされたんだ──。
「一気に情報を伝えてしまったが、大丈夫だろうか? 今日が、私があなたに会える本当の最後のようだから、あなたに知っていて欲しかったんだ」
私に会える本当の最後?
言葉の意味を探ろうとする前に、その意味は彼本人の口から続けられた。
「私は──未来にはもういないのだろう?」
「っ……!!」
落ち着いたアイスブルーの瞳が私をとらえる。
「なぜ……」
「前に話してもらった未来の話。シリルは教師をしていて、同時に公爵としても騎士団長としても仕事しているすごい人だ──と、あなたは言っていた。シリルが騎士団長だけでなく公爵の仕事までしているということは──そこに私はいない、ということだ」
ぁ──。
あの時──。
『グローリアス学園の神魔術の教師をされていて、同時に公爵としての仕事や騎士団長としての仕事もこなす、すごい人なんです!!』
そうだ確かにそんな話をした。
もし仮に騎士団長の座を譲ったとしても、シルヴァ様が生きているならば公爵の仕事までも背負い込む必要はない。
それを全てこなさねばならない、ということは……。
──彼が未来に存在しないと、言ってしまっているようなものだ。
私の胸に激しい後悔が渦巻く。
なぜもっと言葉を選ばなかった。
なぜもっと慎重にならなかった。
「言っただろう? ヒメ嬢。『今日はあなたに会える最後の日だ。だから、お互い腹を割って話そうか』と。あなたも私に話してみるといい。あなたの思いを──」
やっぱり食えない方だ。
この人には本当、敵わない。
私は自分を責めることを捨て、彼の目をまっすぐ見つめると、意を決して口を開いた。
「……シルヴァ様。私の話、聞いていただけますか──?」
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