【SIdeシリル(15歳)】とある公爵令息の恋心



 私は──今──何を──?



「邪魔してごめんね? シリルも早く寮に帰りなねー」

 そう言って突然現れたこの疫病神は、また突然に姿を消した。


 ここに来たのは、別に彼女と待ち合わせていたわけではなかった。

 ただなんとなく眠れなくて、私にとってとても大切な場所であるこの聖域へと足を運んだんだ。

 そう──あの日、彼女が落ちてきた日のように。



 あの日まで私がここに来ることはなかった。

 ここは、姫君と初めて会った日、一緒に散歩に出た場所だから。

 でもあの日。

 あの日だけは、なぜかここに来なければならない気がしたんだ。

 そうしたら……彼女と出会った。


 そして今も。


 自分の感に沿って動いたら、彼女がいた。


「先生……」

 か細い声に、思わず息をのんだ。


 思わず声をかけて、振り返った彼女の潤んだ瞳を見て、心が揺さぶられた。


「……大丈夫。少し、ホームシックになっただけですから」

 そう言った彼女に、ふと浮かんだのは“先生”という存在。


 さっき彼女が呼んでいたのも“先生”だ。

 彼女は──その“先生”とやらが好きなのか?

 そう考えると、口が勝手に動いていた。


「私では、君の先生とやらの代わりにならないか?」


 そんな私の途方もない問いかけに彼女は、

「誰も先生の代わりになんてなりませんよ。それに……シリル君はエリーゼと結婚するんでしょう? そんな誤解を招くようなこと、言っちゃダメですよ」

 と答え、苦しそうに笑顔を作った。



 なぜエリーゼが?

 ……あぁそうか。

 彼女が昼間、余計なことを言ったんだな。

 あの話は断っているというのに。


 それでもなお食い下がろうとするヒメに、今度は口ではなく身体が動いた。


 彼女の手を引いて、その小さな身体を自身の腕の中へと捕らえてしまった。

 こんなこと、今まで誰にもしたことがないし、したいと思ったこともなかったのに。


 あろうことかそのままその潤った唇に、引き寄せられるかのように顔を寄せていった。


 フォース学園長が来なかったら今頃……。

 はぁ……考えるだけで我ながら恥ずかしい。


 まさか私が、この変態に惹かれる日が来ようとは……。




 瞳を閉じれば、眼裏にこびりつくのは私の腕の中で潤んだ瞳で私を見上げるヒメの姿。



“シリルだって男の子だもの。こんな可愛い女の子がそばにいたらムラムラもするわよ”

 

 昨日のレオンティウスの妄言が脳裏を横切る。



「……嘘だろう」


 その日私は、一睡もすることができないまま、朝を迎えた──。

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