私と彼の1週間ー6日目ーからかう親父どもー
「結局一睡もできなかったぁぁ……」
昨夜のシリル君とのことが脳裏に焼き付いて。
あれは一体なんだたんだろう。
夢?
私、もしかして自分に都合の良い夢を見ていたの?
いやいやそんなバカな。
……そうか。
私のいつもの妄想だ!!
きっと寂しくなりすぎて、私の奥底にしまっていた願望が
うん、そうに違いない!!
着替えをして、髪を梳かして……、うん、準備オッケー!!
コンコン──。
いつもの時間ぴったりに扉を叩く音。
「はーい」
扉を開けると、やっぱりそこにはいつも迎えにきてくれるシリル君の姿。
でも今日は少し様子が違って見える。
頬を僅かに赤く染め、私と目を合わせることなく、視線は足元の方へと向かっている。
その様子から、昨夜のことは妄想などではないのだと悟ってしまった私。
「っ……!!」
一気に熱を帯びる頬。
「お……おはよう……ございます」
「あぁ……おはよう」
気まず気に挨拶を交わし、二人して赤い顔をしたまま視線を逸らす。
何これ青春か。
私たちがそんな青い春を体験していたその時──。
「おやシリル。こんな朝早くから女性の部屋で何をしているのかな?」
涼し気な低音が廊下に響いて、私たちは一斉に声の方を仰ぐと、そこにはものすごくにこやかに笑顔を向けてくるシルヴァ様とフォース学園長の姿が──。
「っ……!! 父上!! なんでここに!?」
「私はヒメに用があって、フォース学園長に案内してもらったんだが……シリルはどうした?」
わかって言ってる、この人!!
その妙にさっぱりとした、少し口角の上がった笑顔!!
フォース学園長と同じ。
人をからかっているときの顔だ!!
「私は……ヒメと朝食を取るために迎えにきただけです」
淡々と話すシリル君だけど、表情は固いし歯切れも悪い。
「本当に? 昨夜から一緒だったとかじゃなくて?」
「「なっ!?」」
私とシリル君の声が重なる。
シリル君の顔が耳まで真っ赤になってしまったけれど、今の私もきっと彼と同じようになってるんだろうな。
「そういえば、昨夜遅くも二人良い感じで聖域にいたもんねぇ」
フォース学園長の援護射撃。
ヒメとシリルに100のダメージ!!
──ってふざけてる場合じゃない!!
「ち、違います!! シリル君は、フォース学園長が初日に私の面倒見る係を押し付けてから毎朝、朝食に付き合ってくれてるんですっ!!
私がシリル君を庇うように前に出て言うと、フォース学園長とシルヴァ様は驚いたように目を丸くしてから、互いに顔を見合わせ、やがて大声で笑い始めた。
「はっはっは!!
「っはは!! そうだな。シリルに限っては、私達が考えるようなことはなさそうだ……!! っ……ククッ……!!」
この親父ども。
笑すぎじゃないか?
「っ〜〜!! で? ヒメに何の用なんですか、父上!?」
シリル君が声を強めにあげると、ヒィヒィと笑いを堪えながら
「っはは、あぁ、そうそう。ヒメ嬢。今日のことなんだが、申し訳ないが中止にさせてもらえるかな?」
と私に向けて聞いてきた。
今日のこと。
聖域で会うっていう約束のことね。
「はい。それは大丈夫ですけど……」
「すまない。我が領のコルト村という村近くの森に、魔物の群れが出没したと連絡が来てな。3番隊が駆けつけたが負傷者多数で、1番隊と2番隊の一部も応援に向かったのだが、それも苦戦しているようだ。よって、私も出ることになった」
「コルト村!?」
過去のコルト村。
私にとって馴染みの深いあの村が襲われてる!?
「心配には及ばん。私がすぐに片付けてくる。明日こそは必ず、約束の場所で──」
そう言うとシルヴァ様は、私の右手を取り自身の薄い唇を小さく触れさせた。
「!! っ……父上、約束とは?」
驚いた表情を一瞬だけ見せて、シリル君はすぐに表情を無に戻し、簡潔に自身の父親へと尋ねる。
「ん? ん〜……、私と彼女の秘密……かな」
あぁ、そんなまた、煽るようなことを言って!!
私の隣ではワナワナと震えながら先ほどの無表情はどこへやら、すごい形相で私とシルヴァ様を交互に見ているシリル君。
なんて爆弾落としてくれるんだ。
「じゃ、そう言うことだから、ゆっくり朝食食べて、シリルは授業、ヒメは暇潰し、頑張ってね」
フォース学園長がそういうと、二人揃って私たちに背を向け、シュン──ッと一瞬で転移魔法を使って姿を消した。
「父上!!」
「……いっちゃいましたね」
嵐か。
あの中年二人組は……。
ぁ、一人はおじいさんか。
「ヒメ、父上と知り合いだったのか?」
鋭い視線がこちらへと向かう。
痛いです!!
視線が痛いですシリル君!!
「えっと、この間、学園長室で……」
嘘は言ってない。
「にしては随分親し気だったが?」
「き、キノセイデスヨ? ハハ……」
だめだ。
誤魔化しのできない真面目な性格が前面に出て、言葉がカタコトになってる。
「……はぁ……。君は全く……謎が多すぎる。……行くぞ」
そう言って足を前へと進ませ始めるシリル君に、私は思わず、
「え!? 聞かないんですか!?」
とたずねた。
「言いたくなかったり、言えないことは、無理に言わなくて良い。行くぞ。ゆっくりしすぎると授業に遅れる」
そう言って、おそらくあえて私にちょうどいいスピード感で徐々に遠のいていく背を、私は笑顔で追うのだった。
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