私と彼の1週間ー5日目ー星巡りの指輪ー



「なん……で?」


「一つはさっき言った通り、ポムポロはまだ仮定段階だから。それ以前に、核の研究については発表すらされていない。二つ目は、かすかにあなたにまとわりつく、フォース学園長の魔力。これは彼の指輪──星巡りの指輪の力ではないか? あれは過去へ飛ぶことのできる、世界に一つの指輪だ。効果は確か、1週間だったな」



 あの指輪、そんなにすごいものだったの!?

 そんなもの私なんかのために使ってよかったの!?

 後で請求されない!?

 フォース学園長ならやりそうで怖い……。


「そんな顔しなくても大丈夫。あれは彼が自分で使うために作って、後で本人は使えないことに気づいちゃった、彼にとっての失敗作というか……黒歴史みたいなものだからね」


 請求額を想像してプルプルと震える私の表情を見てくすくすと笑いながらシルヴァ様が言った。

 ていうか、隙のないフォース学園長の黒歴史を知ってるシルヴァ様って一体……。


「自分で使おうとって……フォース学園長にも、行きたい過去があったんでしょうか?」


 あのいつも飄々としていて、余裕たっぷりで、人と違う雰囲気を醸し出している学園長にいきたい過去だなんて、想像できないけれど。


「さあ、どうだろう。でもまぁ、彼にもきっと色々あるんだろうさ。誰にでもあると思うよ、戻りたい過去なんて。私だってそうだ」


 青空を見上げてシルヴァ様が言う。

 聞かなくてもわかる。

 きっと、先生のお母さんのことを思っているんだろう。


 何と言っていいのか分からずに小さく開いた口をキュッと結ぶ。


「このこと、シリルは?」

 問われた私は、黙って首を横に振り意を示した。


「懸命な判断だ。彼は頭は良いが少し硬くて、現実的だ。そして警戒心もとても強いから、なかなか信じてはくれないだろうし」


 確かに。

 意外と息子のことをよく分かっていらっしゃる。


「ヒメ嬢。良ければ、未来のことを少し教えてはくれないだろうか?」

「でも……」

 

 そんなことをして未来が変わってしまったら大変だ。 

 そんな不安もお見通しかのように、シルヴァ様は優しく笑った。


「大丈夫。フォース学園長のことだ。どうせ関わった人間の記憶は消去するつもりだろう」


 確かに、抜け目のないフォース学園長のことだ。

 それくらいはやりかねない。



 私が「わかりました」と頷くと、「ではこちらへどうぞ、レディ」と爽やかでアダルティな笑みを浮かべ、シルヴァ様は私へと手を差し出した。


 先生そっくりの顔でそんな爽やかな笑みを浮かべてエスコートの申し出をしないでぇーっ!!

 私の理性が爆発する……!!


 頬に集まる熱を首を振って霧散させると、私はゆっくりとその手を取った。

 ひんやりと冷たい、大きな手。

 少しゴツゴツしたそれは、騎士の証のようにも思う。


 ゆっくりと私の手を引き、私とシリル君がいつも座っている気の根元へとエスコートして、自身の白マントを取り外すと、その場へと広げた。



「どうぞ」

「いやいやいや!! 汚れますから!!」

「騎士のマントは、このようにも使えるのだよ。それに、浄化魔法は心得ている。遠慮なく座ってくれ」


 なんて大人な……!!

 なんて紳士な……!!


 イケメンか!!

 ────イケメンだ。


 私は促されるままに彼の真っ白なマントの上へと腰を下ろすのだった。

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