私と彼の1週間ー3日目ー母性発動ー



 なんだかんだと三日目の朝。


 私とシリル君は誰もいない図書室で二人、魔法に関する本を開いている。


 昨日戦いが終わってから、私の戦い方に興味を持ったシリル君が、図書室で魔法の勉強をしたいから付き合ってくれ、と誘ってくれたのだ。



 愛しのシリル君の誘いを断るなんて私ではない。

 二つ返事で図書室に行くことを決めた。


「──で、──だから……──」

「なるほど……だからか……。君の説明はわかりやすいな」

 感心と驚きを織り交ぜた表情でそう言ったシリル君に、自然と頬が緩む。


 私の5年間は今、この時報われた……!!

 5年……真面目に勉強続けててよかったぁぁぁ!!


「私一人では、ただ時間を消費するだけになっていた。礼を言う」

 真面目な顔で礼を言うシリル君。

 相変わらず律儀な人だ。

 そこがまた愛おしい。


「ふふ、どういたしましてです」

「もう一ついいか? ここなんだが……この理論だとおかしいんだ」

 そう言って、分厚い魔術書を開いて私に見せてくるシリル君。


 あぁ、かわいい……。

 本を開いて真面目な顔をしてわからないところを懸命に聞いてくる15歳の子ども先生──シリル君が尊い……!!


 お姉さんの母性、刺激されまくりですよシリル君!!


「……なんだ、悪寒が……。って、ヒメ、聞いているのか?」

「はっ!! えっと……何でした?」



 危なくイケナイ方向に脳が移動するところだった……!!


「まったく……。君は賢いのか馬鹿なのかどっちなんだ……?」

 呆れ気味にジトッと目を細め、私を見るシリル君。


 うっ……。

 先生の若い頃って今より辛辣だったのね。

 オブラートという言葉を知らないのか、彼は。

 いや、今もか。


 でも今の先生よりもたくさん話もしてくれるし、表情もまぁまぁ豊かだ。



「ここの事だ。魔法剣の理論として、この通りにしてみているが、どうもこのやり方では持続性がないんだ。もう少し魔法剣を維持させたい。君は風魔法を自身に纏わせながらも、炎魔法を付与して魔法剣を同時に操った。にもかかわらず、まだまだ余裕そうだっただろう。その維持力が欲しい」



 さすがシリル君。

 エリーゼを蘇らせようとする前からこんなに真剣に学ぼうとしてるなんて。

 もともと勤勉な子だったんだなぁ。


「ぁ、ここは私も苦労しました。魔力量が増えるまでは、力を流すスピードを一定に保つと少し維持できるようになりますよ!!」



 魔法剣の持続時間を保つのは結構難しい。


 魔力量が充実している状態であれば、苦労することなく保たせることができるけれど、私や先生が昨日行ったような、魔法を使いながら他の魔法を剣に付与させ魔法剣を振るうというのは、かなりの魔力量と集中力を使う。



 先生の魔法剣は独学だと前に聞いたことがある。

 魔法剣に関する著書も少ないし、効率の良いやり方を編み出すまでにきっと血の滲むような努力を繰り返していたんだろうな……。



「シリルくん。シリル君はなんでここまでして強くなろうとしてるんですか? もう十分強いですよね?」

 

 私が言うのも何だけど、どこか焦って強くなろうとしているようにも見える。


「まだ足りない。魔法剣をしっかりと使えるようにならなければ……」

 思い詰めたように自身の手を見つめ、ぐっと握り込むシリル君。



「私は代々王家を守る騎士の家系、クロスフォード家の人間だ。卒業後は騎士として生きていくことになる。騎士団長の座は世襲制ではないが、私はすでに現騎士団長である父よりも力を持っているから、いずれ騎士団長を拝命することになっている。騎士団が総力を上げて闇と戦っている以上、父上もいつどうなるかはわからぬ身だ。もしものことがあった際、私が強くあらねば……。部下を無駄に死なさぬためにも……な」



 そうか。

 代々王家を守る騎士……。

 そして王家のいない今、圧倒的強さを持ったシリル君が騎士団長の椅子に座ることになる。


 こんな子どもの時から、ちゃんと自分のやるべきことを理解している。

 そして自分という存在が、どのような位置にあるのかも、その影響力も。


 私は厳しく騎士たちに稽古をつける先生の姿を思い出した。

 冷酷な騎士団長。

 でも彼が厳しくするのは、誰も死なせたくないから。

 優しすぎるのだ、彼は。



「……そうだ!! これから訓練場借りて練習しませんか?」

 私はパンッと手を叩いて、提案する。

 こういうのは実技が1番効果がある。


「いいのか?」

「はい!! ぜひ!!」

「じゃぁ──頼む」


 パタン……とい持っていた分厚い魔術書を閉じながらシリル君がボソリと紡いだ言葉を、私はしっかりと聞き取った。



「はい!! 早速使用許可をもらいに行きましょ!!」

「お、おい!!」


 シリル君の細いけれど大きな手を引いて、私は彼をひきづるように図書室から走って出て行った。




挿絵↓

https://kakuyomu.jp/users/kagehana126/news/16817139557799600713

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