私と彼の1週間ー2日目ーウブな彼と魅惑のホットサンドー



 カーテンの隙間から白い光が線になって降り注ぐ。


 浮上しかけた意識を「もう少し……」と押し戻して、私は弾力のある抱き枕をぎゅっと抱きしめる。

 すると──


 コンコン──


 硬いノック音が遠くの方で聞こえる。


 朝っぱらから誰よ。

 今は夏休み中だし、レイヴン達しかいないか。

 けれど一向に開く気配はない。


 先生の部屋にノックして返事を待っているということは、レイヴンやレオンティウス様ではない……?

 そういえば、先生の返事も聞こえない。

 先生、いないのかしら?


 私は重い瞼を擦りながらネグリジェ姿のまま先生の部屋へとノロノロと歩いていった。


「先生ー。お客さんですよぉ〜……って……あれ?」


 ガランとした何もない部屋を前に記憶がよみがえる。


「あ……そっか。私、過去に飛ばされたんだった」

 それで聖域に落ちて……。

 15歳の先生と事故チューして……。



 ────15歳の先生!?



『じゃ、また明日の朝迎えに来る』


 別れ際に言われた言葉を思い出し

「まさか!!」

 急いでドアを開けると──。


「遅い!! ノックしてから何して……ってなんて格好してるんだ君は!! 服を着ないか!!」


 険しい表情で立っていた少年は、私の姿を見るなり顔を真っ赤にしてくるりと後ろを向いて声を上げた。


 普通のキャミワンピース的なネグリジェなんだけど……。

 うぶか。


 そういえばこの格好で先生のところに行った時は、必ず自分の上着をかけてくれてたっけ。

 お小言とともに。


 こういううぶなところはずっと変わってないんだなぁ……。


 過去と未来の共通点に頬を緩ませていると、ワナワナと震え出す彼の肩。


「早く着替えてこい、この変態!!」

 シリル君の声が朝の廊下に響いた。




「まったく……君は不用心すぎる!! あんな格好で出てくるなど……!!」

 ぷりぷりとお小言をこぼしながら乱雑にホットサンドを自身の口に入れるシリル君が今日も可愛い。



「だからすみませんって言ったじゃないですかぁ。シリル君、うぶなんだから」

 

 言いながら私もホットサンドをナイフで斜めに切って三角の形にすると、切れ目からほんのりと暖かい熱気とともにたっぷりのスクランブルエッグが顔を出す。


 ふぁ……美味しそう……!!

 一緒にとろりと溶けでたチーズが『早く食べて♡』と私を誘ってくる。

 なんて魅力的なお誘いなんだ……!!


「──……い。……おい!!」

「はっ!! 魅惑のホットサンドが……!!」

「何言ってるんだ君は」


 呆れたようにじっとりと私を見つめ、ため息をつくシリル君。

 見れば彼の皿はすでに空になっていた。


 早っ!!


「早いですねシリル君!!」


「君がボーッとしてるからだろう。それより私は今日はずっと剣の訓練をする予定だが、君はどうする?」


「へ? あ、そっか。今夏休みですもんね。って、あれ? シリル君はおうちには帰らなかったんですか?」

 私が質問に質問で返すと、シリル君は大きくため息をついた。


「帰っていたが、こうも騎士団が忙しくしていれば、学生であれども騎士団に入団している私とて手伝いをせねばなるまい。早めにこちらに戻り、要請に対応できるようにしている」


 そういえば、先生も15歳にはすでに騎士団にも所属していたって言ってたっけ。


「あの、ご迷惑でなければ、私も一緒に訓練させてください」

 そう言うとシリル君は切長のアイスブルーの瞳を大きくして「君、剣を扱えるのか?」と驚きの声を上げた。


「あ、はい。多少は」

 

 ただ、今の私は愛刀を持っていない。

 一緒に転移はされなかったようで、こちらに来た時にはすでに腰にぶら下がっていなかった。


「そうか……。なら相手をしてくれ。騎士達は魔物の討伐で手一杯だろうし、ジゼル先生も新学期の準備でお忙しいだろうから」

「はい、ぜひ」

 私が笑顔で返したその時だった。


「クロスフォード殿!!」

 

 一人の騎士が私たちのテーブルへと息を切らせながら駆け寄ってきた。

「食事中申し訳ありません!! 闇堕ち魔物ダークスターが現れました!! 手を貸していただけませんか!?」


 だーくすたー?

 聞き馴染みのない言葉に首を傾げる。


「わかったすぐに行こう。──すまないヒメ。私は魔物討伐に行く。君はここで──」

「私も行きます」


 シリル君の言葉を遮りながら私は彼に視線を向ける。


「だが」

「私、意外と強いので。ぁ、剣を貸していただけますか?」

 

 有無を言わさぬ笑顔で言い切ると、シリル君は少しだけ考えてから、私の意見を変えるのは時間の無駄だと思ったのだろう、一度ため息をついてから「わかった」と短く答えて頷いた。



 返事を聞いてすぐに私は、すっかり冷めてしまったホットサンドを口の中へと無理やり詰め込み「ふんぐっ!! むふふふんっ!!(さぁ!! 行きましょうっ!!)」と立ち上がった。


「飲みこんでからにしろバカ」


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