私と彼の1週間ー2日目ー闇堕ち魔物(ダークスター)ー
騎士団の剣を借りてから、私たちは騎士から場所の説明を受け、二人で王都の森へとやってきた。
【オーク】討伐でよくグレミア公国付近の森には行っていたけれど、王都のような中央部にまで私たちの応援がいるような魔物が出るなんて。
それにこの
学園や城が存在している王城圏を出てすぐに私を驚かせたのがこの靄だ。
何せ王都全体が、いや、おそらくそれよりも広範囲に
「この靄は?」
私がたずねると、先生は不振そうに私を横目でチラリと見てから「君は今までどこにいたんだ?」と低く尋ねた。
あ、なんかまずった?
「あー、えっと、私、ここしばらくずっと王城圏の神殿にこもっていたので……、は、はは……」
「……」
あ、信じてない目だ。
となると……なんて言えばいいんだ。
私が必死で次の言い訳を考えていると、隣でため息が一つ落ちた。
「まったく君は……。今のセイレは──いや、セイレだけではない。世界は闇に覆われ、瘴気が発生している。1年ほど前にグレミア公国が、工業国であるルベナ国を侵略するため戦争を起こしたことがきっかけだ。戦いは闇を生む。このセイレは王族の守りでまだ人の住む場所は無事だが、森はついにその守りを失い、瘴気に侵されてしまった。もういつ人の住む場所にまで侵食して、魔王が復活してもおかしくはないところまで来ている」
シリル君の深刻な状況の説明にごくりと息を呑む。
そうか。
ここは魔王が復活してエリーゼと先生によって倒される少し前。
もうすでに闇が広がって来ているんだ。
グレミア公国の急激な発展は全てここから始まったんだろうけれど、犠牲にされたものは多い……か。
いつ魔王が復活してもおかしくない、闇に覆われた世界──。
それも一つの戦いがきっかけで──。
【本当に……愚かなものだ】
私の中の何かがモゾりと蠢く。
こんなふうになってしまんだろうか……。
私が元いたあの時代も……。
そうなれば先生はまた傷つくんだろうか。
レイヴンやレオンティウス様や、クレアやメルヴィ、ジオルド君達も?
それは──嫌だ。
不意に、以前冬休みに交わした先生との会話がよみがえる。
『今の平和があるのは、鬼神様とセイレ王室のおかげでもある』
『でも、王族って……』
『あぁ。今はいない。その現状を、他国に知られるわけにはいかない。知られればおそらく、膨大な魔力を蓄える聖域のあるセイレを手に入れようと、侵略に踏み切るだろう。いつまでも騙し続けることはできないだろうが、開かれる元老院を交えた会議でも議題に登るが、未だ解決法は見つかっていない』
もしも……。
もしも私が王位を継承すれば、抑止力になるのかもしれない。
少なくともセイレに喧嘩を売ろうなんて輩はいないだろう。
なら……私は……。
「おいヒメ」
「!!」
「またぼーっとして……。ヒメ、君には緊張感というものがないのか?」
じとっと目を細めて呆れたように言うシリル君。
いけないいけない。
私また脳内トリップしてた!?
ガサッ──。
森の茂みの奥で音がした。
その音は段々と大きくなり、こちらへと近づいてきているのが分かった。
「くるぞ──!!」
動く茂み睨みつけながら剣を構える先生。
ガサガサガサガサ──ッ!!
「グォォォォォォ!!」
「ッ!?」
飛び出してきたのは見慣れたはずの【ベアラビ】……!!
けれどそれにしては少し色がおかしい。
クリーム色の毛並みは瘴気と同じ
口は大きく裂け、牙を剥き出しにして目の前の獲物を捕食しようと構える【ベアラビ】。
彼らは人語を理解することもできる知能を持っている。
だからこそ私のシリル・クロスフォード先生物語を聞かせ更生をはかることができているのだから。
だけどこの【ベアラビ】は、少し違う。
こちらの声など聞こえていないかのように、ただただ獲物として狙っている。
もともと凶暴な性格ではあるけれど、こんなに狂気に満ちた目をした【ベアラビ】は見たことがない。
私は借りた剣を【ベアラビ】に向かって構える。
「シリル君。【ベアラビ】ってこんなでした?」
「君は本当に無知だな。瘴気のせいでおかしくなってるに決まっているだろう。どんな魔物でも、瘴気の中にいれば闇堕ちした凶悪な魔物になる。普通の魔物とは違うんだ、この【闇堕ち
言うが早いか、【ベアラビ】の太くて大きな腕が、私とシリル君の間にドシンと跳んできた。
「ッ!!」
間一髪のところで左右に避けた私たち二人。
腕が突っ込んだ地面には大きな穴が空いている。
あれがまともに当たったらと思うとゾッとする……。
【闇堕ち
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