グレミア公国・騎士団長タスカ
白銀の刀身が姿を現し、私はそれを自分の真正面に構える。
リリン──……。
鈴の音が小さく鳴り響く。
お母さんから最後にもらった、お守りの鈴。
私は──お母さんの娘だ。
だからきっと、見守っていてくれる。
そう信じたくて刀に結んだそれは、私の動きに合わせて涼やかな音を奏でる。
8対1か。
できないこともない、はず!!
瞬間、私は大地を蹴って、前方へと駆けた──!!
風魔法を纏った身体は軽やかに前へ前へと進んでいく。
タタタタタタタ──ッ!!
シュンッ──キィィィン!!
「はっ!?」
一撃目、1番手前の騎士の剣を愛刀で勢いよく弾き飛ばした私は、瞬時に土魔法で足元の草を成長させ、男の身体を絡め取った。
一丁あがり。
「くそっ!! このガキがぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉ!」
両脇から二人、私に向けて剣を振り上げきりかかってくる。
私は大地に左手をつくと、魔力を地面へと流し込む。
すると両脇から二つの水柱が勢いよく上がり、二人の男は宙へと舞い上がった。
そこへ魔力をもうひと流しすると、木の枝がぐんぐんと枝を伸ばし、やがて宙に枝の檻を作ると舞い上げられた男たちをその中へと押しやり、まとめて収監した。
さて、あと5人。
「はあぁぁぁ!!」
焦りを見せ始めた男たちは、5人まとめて私に向かってくる。
キンッ──キィィィンン!!
ガンッ!!キィィンッ!!
「くっ……!!」
重い刃を跳ね除け受け止め、腕にビリビリとした衝撃が訪れる。
やっぱり相手は力の強い男性。
力だけで推し進めるにはちょっと無理があるか。
「なら──!!」
私は手のひらを彼らに向け、炎魔法を繰り出すと、燃え盛る烈火が男たちを取り囲んだ。
「うわぁっ!!」
「熱い!!」
変な夢のせいであまり戦闘面において使いたいと思えない炎魔法だけれど、攻撃力としては最高だ。
あとは一気に縛り上げてお持ち帰りするだけ。
私が再び手のひらを彼らに向けたその時──!!
ドッ──!! シュウゥゥゥゥゥ……!!
突然大量の雪が炎の真上にドカッと降り注ぎ、炎は一瞬にして白い煙を上げながら消えてしまった。
「なっ!?」
「残念だったな。お前たちの負けだ」
男の声がして私が勢いよく声のした方を見ると──。
「待たせたな」
右頬に大きな傷跡を持つ赤い髪の美丈夫が、背後に10人ほどのフードを被った魔術師を引き連れてそこに立っていた。
「おいおい、まったく……こんな子ども一人にこのザマか」
呆れたように笑いながら、捕まっている男たちを見て男が言う。
「お嬢さん、その容姿……【グローリアスの変態】だな?」
「その呼び名やめてぇぇぇぇ!?」
何真面目な顔してそんな異名を口にしてるのこのイケオジ!?
「ん? あぁ、悪い。俺はグレミア公国の騎士団長、タスカ・ロベモアだ。お嬢さんは?」
丁寧に謝罪と自己紹介をするイケオジ、もといタスカさんに、刀を構えながら「ヒメ・カンザキです」と答える。
「ヒメか。こんな可愛らしい女の子に、大公と魔術師隊の計画は阻まれ続けてたのか」
ボソリとつぶやくように言ったタスカさん。
「今日こそは聖女は連れ帰らせてもらうぞ」
そう言うとタスカさんは瞬時に私のすぐ横を駆け抜け、クレアとセレーネさんを囲んでいる防御壁へとその大剣を振り下ろした。
ガン──ッ!!
「キャァァァァ!!!!」
パリィィィィン──!!
嘘でしょ!?
一瞬にして防御壁は粉々に破壊されてしまった。
私の防御壁を破るなんて……。
いや、考えている暇はない。
「おっと、ジルビアーネの孫もいたか。となるとこっちが聖女か。すまないな聖女。我らの国の民のため、働いてもらうぞ」
タスカさんがそう言ってクレアに手を伸ばす。
「いやっ……!!」
「させません!!」
シュン──ッ
私はタスカさんとクレアの間に光の壁を作ると、一気にそこまで駆け、クレアを背に守る。
「ヒメ……!!」
「ほぉ? やるな」
感心したように自らの顎に手を置いて驚きの表情を浮かべるタスカさんを、私はキッと睨みつける。
「なぜ聖女なんですか? 聖女を使って何をしようとしているんですか?」
ずっと疑問だった。
魔法分野において急成長を遂げ、さらに工業にまで力を入れ始めたグレミア公国が、なぜ聖女を欲するのか。
「なぜって、決まってるだろう。聖女の加護によって、より国と国民を豊かにするためだ。いいじゃないか、セイレには鬼神様の加護である王族が既にあるのだから」
「だからって人の命を奪おうとしたり、いたいけな幼女をいたぶっていいの!?」
私が未来を変えたから無事だったものの、本来ならそのせいでマローの両親は殺され、幼いクレアは従順にさせるためとして拷問を受け声を失う。
いくら自国と国民のためでも、やっていいことと悪いことがある。
「はぁ? 何だそれは?」
帰ってきたのは何とも間の抜けた声だった。
「うちの騎士団の知るところじゃねぇぞ」
告げられた言葉に驚き目を見開いたその時──。
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