婚約披露パーティーー幸せな二人ー
先生のエスコートでシード公爵家のパーティー会場へと足を踏み入れると、招待客の視線が一気にこちらへと集まった。
「あのクロスフォード公爵様が女性をエスコートしているぞ」
「男性が好きなのではなかったのか?」
「あれは……クロスフォード家の庇護下にあるというヒメ・カンザキじゃないか?」
「私のクロスフォード公爵様がぁ……!!」
様々な声が飛び交う。
男が好きって噂、まだ存在してたんだ……。
「あの〜……先生? 今まで女性をエスコートしたことは?」
「あるわけないだろう」
「でも、女性のエスコート必須のパーティーとか……あるんですよね? だから私を……」
「あるわけないだろう。いつも一人で出席していた」
先生が不快そうに眉間の皺を深く刻む。
「だ、だってジオルド君が、クロスフォード公爵家当主がパートナーも連れずに出席なんてありえないからって……!!」
「確かに、踊るには女性のエスコートが必須だろうが、私は主催に挨拶をして少し招待客と話したらすぐに帰っていたからな。一人で事足りる」
私はその言葉にぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
だ・ま・さ・れ・た!!
私はキッ!! と私の一歩後ろを歩くジオルド君を振り返り睨みつける。
視線に気づいたジオルド君は「ふん、今更気づいたのか、バカなやつ」と鼻で笑った。
くぅ〜〜〜っ!!
なんて弟だ……!!
私が悔しがると、ジオルド君は私のすぐ隣に移動して、少し屈んで私の耳元でささやいた。
「でも、仕方なくお前をパートナーにしたんじゃなくて、よかったじゃないか」
はっ!!
そうだ。
パートナーがいなくてもいいところに私を選んでくれたのは、紛れもない先生だ。
しかもあんなプロポーズまがいのようなことまでして。
私は口元がニヤつくのを隠すように口元に手を添える。
「ん? どうした?」
首をかしげて私を覗き込むようにして見つめる先生。
あぁ、今日も推しが可愛い。
「な、なんでもないです」
「そうか? とりあえず、主催者への挨拶に行くぞ」
そう言って先生はまた私の手を引き歩き出し、たくさんの人だかりの方へと入っていく。
私たちに気づいた人々は自然と避けてき、人だかりが割れると、その中心にいる人物が見えてきた。
メルヴィの両親に、ラウルの両親、おそらく彼のお兄様であろうラウルによく似た男性、そしてパーティーの主役であるメルヴィとラウルが揃っている。
「シード公爵。この度は、お招きいただき感謝する。メルヴェラ嬢、ラウル、おめでとう」
先生が私の手を握ったまま軽く腰を折り、私もそれに合わせてドレスの中で膝を折る。
「クロスフォード公爵。祝いの言葉感謝いたします。ヒメ殿とジオルド殿も、よく来てくださった。今宵は存分に楽しんでいってください」
シード公爵が穏やかに笑った。
笑顔がメルヴィそっくりだ。
「ヒメ、来てくださってありがとうございます」
「今後ともよろしくお願いしますね、ヒメ」
礼儀正しく声をかけるメルヴィとラウル。
メルヴィは胸元にレースで薔薇があしらわれたレモン色のドレスに、ラウルの目の色を感じさせる灰色のパールで首元や耳を飾っていてとても可愛らしい。
ラウルの胸にはメルヴィの瞳の色である琥珀のブローチが飾られている。
とてもお似合いの二人に、思わず顔が綻ぶ。
「二人とも、本当におめでとうございます。どうかこれからも末長くお幸せに」
「ふふ、ヒメったら。まるで結婚式のようですわよ」
くすくすと笑うメルヴィはとても幸せそうで、そんなメルヴィを見て隣で微笑むラウルも本当に彼女のことを愛おしく感じているんだなとわかるほどだ。
「あぁ、そうですわ。クレアやアステル、マロー達も来てくださっていて……ほら、あそこに」
そう言ってメルヴィが指さした先には、角の軽食コーナーで黙々と食事をするクレア達の姿が──。
普通は平民が貴族の、しかも公爵家のパーティに来ているなんて、貴族からは嫌がられそうなものだが、セイレの貴族は基本平民との距離が近い。
皆微笑ましそうに、3人の食事を見守っている。
「あいつら、ここの食事全部食い尽くすんじゃないか?」
「レイヴン」
いつの間にか私の背後に立っていたレイヴンが呆れたようにクレア達を見て笑った。
「お兄様、今までどこに?」
メルヴィがたずねると「あぁ、パーティ開始早々、御令嬢達が離してくれなくてな」と言ってニカッと笑ったレイヴンは、紛れもなく元祖チャラ男だと思う。
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