無力な子供のままじゃない
「うがぁぁぁぁぁぁ!!」
「グアァァァァァ!!」
「ガガガアァァァァ!!!」
私の目の前には3体の【オークキング】。
聞いていたのは1体なんだけど……何がどうしてこうなった!?
そう思いながらも素早く抜刀すると、自身と刀に風魔法を纏わせる。
シュルシュルと音を立てて風を纏った刀身がギラリと光って、私は地を蹴り上げ空を舞った。
風魔法を纏った私の身体は自由自在に宙を駆ける。
風を纏って風を感じる──最っ高に気持ちいい──!!
ひと振り──……
「ガアァァァァ!!」
ふた振り──……
「グガガアァァァァ!!」
み振り──……
「ガガァァァァァ!!」
【それら】はドシンと大きな音と響きとともに土へと還った。
何度経験しても、肉を断つ感触はあまり得意ではない。
まぁ、魔物を捌いて食べる人間が言っても説得力はないけれど。
【オーク】のような人型のものは特に……苦手だ。
それでも、やるかやられるかの戦いの中では、気にしてはいられない。
私は、来るべき時のために慣れなくてはいけないんだ。
私は刀を鞘に戻し、すぐにポケットから
「討伐完了、っと」
朝になって、やっぱり自分も行くと言い出した心配性の先生を魔法で眠らせてきた私。
以前なら私に対して常に警戒していた先生がいとも簡単に眠ってくれたということは、それだけ私に気を許してくれているんだろう。
そう考えると少しだけ口元が緩む。
寝ていてくれれば、きっと少しは疲れも取れる。
お説教は免れないだろうけど、先生のお説教ならむしろウェルカムだ。
どんとこい。
「さて、帰りますか!!」
私が
────ガサッ……。
「おや? こんな森の中にお嬢さんお一人で?」
茂みから3人の【黒いフードを被った】人間達が現れる。
声の野太さからして、男性か。
見覚えのあるタイプの格好……。
あぁ、そうだ。
────5年前。
私を拷問にかけた【奴ら】と同じ。
ということは────【グレミア公国】の……。
「一人じゃ悪いですか? 貴方達も朝の
私が当たり障りなく答えると、真ん中の男がうすら笑いを浮かべてゆっくりと私に近づく。
「その制服……。グローリアスの生徒か。今年のグローリアスには、聖女が入学していると聞く。君は──知っているかね?」
あぁ、やっぱり。
聖女を狙うフードの男。
【グレミア公国】で間違いない。
「そうですねぇ……。ちょうど私の親友が聖女ですが……それが何か?」
私が正直に答えてやると、男達が口元にニンマリと笑みを浮かべた。
「そうか。ならば、私たちと共に来てもらおう」
「いやですよ。知らない人についていってはいけないと、先生にキツく言われているので」
これは事実だ。
正確には過保護な保護者3人組だけれど。
うちのクロスフォード先生も、レイヴンもレオンティウス様も、私が出かけるたびにそう言ってくる。
いつまでも子供扱いなんだから。
「そうか……。ならば、無理矢理にでも連れて行くまでだ」
先ほど近づいてきた男が私の左手をグッと掴み上げ、両脇のフードの男達に合図を送ると、残りの二人も私にゆっくりと近づく。
「っ!!」
握り潰さんばかりの強い力に思わず眉を顰めるが、私も今回は負けるわけにはいかない。
いや、負けるわけがない。
だって、あの時から私は格段に強くなった。
どんなに辛い修行も、毎日耐え抜いてきた。
あの時の、あの悔しさを忘れたこともない。
もう何もできずにただ痛みに耐えるだけの、実践を知らない無力な子どもじゃない!!
ゴボボボボボ──!!
「うあぁ!!」
「なんだ!?」
地面が大きく窪み、出来上がった二つの穴に両サイドの男達は勢いよく落ちていった。
「なっ!! 貴様何をした!?」
「ちょっと土属性の魔法で穴を掘っただけですよ。まぁ……そう簡単には上がっては来れませんが……」
なんてったって、深く掘られた穴の奥には、同じく土魔法で活性化させた木々の根っこが男達を捉えているんだから。
「きっ、貴様ぁぁぁぁぁ!!
バリバリバリバリ──ッ!!
眩い光を放ちながら雷が私めがけて頭上から振りおちる──!!
「っ!!」
ふと5年前のあの時の痛みがよみがえるけれど、私はすぐに気を持ち直し間一髪のところでそれを避けると、腰の剣帯ベルトに刺した愛刀を引き抜いた。
「小娘一人でこの私にかなうと思うな!! 炎よ!!」
次に男が叫ぶと、目の前に大きな炎の竜が飛び出し、私を取り囲んだ。
こいつ……2属性持ち!?
火の粉を振り撒きながら私を鋭く睨みつける炎の竜。
マローが出したものの比ではないほどの大きさ。
それに殺意のこもった炎──……。
【ーーーーーー!!】
頭の中でいつもの夢の中のあの女性の叫び声が聞こえる。
と同時に、身体が震えて呼吸ができなくなった私は、ついに膝をついてしまった。
この炎を──……。
この殺意に満ちた炎を──……。
私は知っている──……。
これは──……!!
目が熱い。
じんわりと熱を持った私の目に違和感を覚え、思わず両手で覆う。
何が……何が起きてるの?
なんでこんなに──── ……苦しいの?
「死ねぇぇぇぇ!!!」
男が荒げた声に反応して、炎の竜が勢いよく大きな口を開けて私に突っ込んでくる。
「っ!!」
ダメ、避けられない──!!
私が咄嗟に防御魔法を纏うが、それは集中不足による不完全なもので、衝撃は免れない。
私はグッと目を瞑り、刀と手を顔の前に構えた。
刹那──……。
キィィィィン──……!!
「ハァ……。全く……。何をしているんだ、君は」
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