ゆびきりげんまん
「先生、少し休んでください」
「いや、問題ない」
「問題しかないです!! ずっと働いてるじゃないですか!!」
「毎日1時間は眠っている。問題ない」
「1時間は寝たうちに入りません何言ってんですか社畜すぎます!!」
今私は修行終わりの先生と押し問答を繰り返している。
「朝も夜も、先生は休まなすぎです」
「私のやるべきことをできるようになるまで、あと少しだ。それに【オークキング】の目撃情報も増えている今、休むわけにはいかない」
くそ、この生真面目教師……。
でもそんなところも好き……!!
エリーゼを甦らせる術を使える魔力量になるまで、おそらくあと少しなのだろう。
エリーゼのためにこんな無茶な生活をしていると思うとなんだか悔しいけれど、それが一途なこのシリル・クロスフォードだ。
仕方がない。
そんな一途な愛に私は惹かれたんだから。
でも!!
それとこれとは話が別だ。
休んでくれないと私が変えたい未来よりも前に先生が過労死する!!
「────わかりました……。でもその代わり明日の【オークキング】討伐は私がいきます。先生はその間休んでいてください」
「そんなことは──」
「【オークキング】一体如き、私一人で行けます」
先生の反論を無視して無理やり被せるように続ける。
「それができないなら、今日の先生の【大切な】修行はやめて、今から休んでください」
過労死寸前なのではないかと言うほど動き続ける先生に、私も今日は譲るわけにはいかない。
この人は他人に頼ることを知らなすぎる。
私はじっと先生のアイスブルーの瞳を見つめ続けると、やがて先生は両手を小さくあげて「わかった……頼む」とため息をつきながら小さく返した。
その言葉に私は思わず笑みを浮かべる。
勝った……!!
先生の過労死フラグを回避したぞ……!!
「約束ですからね!!」
と先生の小指を無理やり私の小指で捉え、絡ませる。
「……なんのマネだ?」
眉間に皺を寄せ首を傾げながら、訝しげに結ばれた小指を見つめる先生。
ありがとうございます、その反応すごく可愛いです先生。
「約束のおまじないですよ。私の世界ではよく子どもたちがやってます」
簡単に説明すると、私は絡めた小指をキュッと握り歌う。
「ゆ〜びき〜りげ〜んまん、う〜そつ〜いた〜らは〜りせ〜んぼ〜んの〜ます!! ゆ〜びき〜った!!」
私が先生の手で無理やりに指切りをすると、先生は眉間の皺をより深くして解放された自身の指をまじまじと見る。
「なんだそのえげつない歌は……。こんな危険な歌を歌い、まじないをかけるのか君の世界の子ども達は……!!」
「いや、ものの例えですから」
でも確かに、あんまり気にしたことなかったけど、この歌かなりえげつないわ。
針千本飲ませるうえ、指を切るとか残酷すぎる。
「そう……か? まぁいい。話が終わったのなら、私は行く」
「あ!! 待ってください!!」
私は先生の漆黒のマントを掴んで彼を引き止める。
「なんだ?」
不機嫌そうに睨みつける先生に私は「両手、失礼します」と彼の黒い手袋で覆われた大きく筋張った両手を、自分の両手で包み込む。
「っ!! 何を──っ!!」
手を引き抜こうとする先生。
それでも私はぎゅっと掴んでそれを阻止すると、大きく息を吸った──……。
「祈りの歌声 溶けてまた始まる
夜を超えて続く 永遠の祈り
守れ 愛しき人を
守れ
歌は聖域全体に広がり響き、聖魔法によって放たれた光に馴染んで溶けた。
どうも歌に乗せることでより効果を高めてくれるらしい私の聖魔法は、ここぞという時にしか使わない。
魔力の消費がその分多いから。
「はいっ!! これで少しは疲れも取れたはずですよ」
「…………あぁ……。ありがとう」
自分の手のひらを見つめながら礼を言うのを忘れない律儀な先生は、やっぱりジオルド君とよく似ている。
「では、私は行く」
「はい。行ってらっしゃい」
ふにゃりと笑って、私は先生を送り出した。
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