ジオルド・クロスフォードーお宅訪問ー

 そうこうしているうちに、グローリアス学園は冬休みに入った。


「ヒメは冬はどうするの?」

 

 すっかり読書友達になった魔王様……ではなくアレンが、目の前で本を開き、頬杖をつきながら目を通す私に聞いた。


「いつも通り、部屋にいますよ」

 視線を本から離すことなく言葉を返す。

 

「シリルは家に帰るのに?」

「……へ?」

 その言葉に思わず口を開けたまま視線を上げる。


「え、聞いてないの? 年末は家に帰って、公爵として仕事してるよ、毎年」


 き・い・て・な・い!!


 先生が帰るということは、私は一人、グローリアス学園で過ごすことになる。

 

「ア、アレンも、帰るんですか?」

 探るように声を潜めて聞くと、

「うん。流石に年末はね。僕も伯爵の仕事があるし」と無慈悲な答えが返ってきた。


 THE・ぼっち!!

 そんな言葉が私の頭をよぎる。


「シリルに聞いてみなよ。もしかしたら今年は残るのかもしれないし」

 慰めるように言うアレンに、私は力なく頷いた。



 ────




「先生先生先生せんせーーーーっ!!」


「うるさいっ!」

 バシン!

 ノートが私の側頭部を直撃する。

「いったーっ!」

 騎士団訓練場にノートの音と私の声がこだまする。


「こんなところで大声で呼ぶな馬鹿者」

「うぅ〜……愛が痛いです、先生」

「愛ではない。むしろ憎しみだ」

「照れないでくださいよ! もう、先生ったらツンデレなんですから!」

「照れてない。君は少しおとなしくできないのか」


 訓練中の騎士たちが物珍しそうに私達をチラチラとみている。


 あのシリル・クロスフォード騎士団長とコントを繰り広げる少女。

 あれが噂の『グローリアスの勇者』か……と。

 端の方でジャンとセスターが笑っているのが見える。

 失敬な。


「それより先生!! 冬休みはご実家に帰られるって本当ですか!?」

 先生の黒一色のマントを掴み、私は詰め寄る。


「あぁ。そうだな」

「そうだなって……、なんでそんな大事なこと黙ってたんですか!!」

「私は言った」

「へ?」

「一週間ほど前。荷物をまとめておけと」

「へ?」

「新学期まで我が家で過ごすようにと」

「へ!?」

「君は夜の修行を終えて、うつらうつらとしていたがな」


 確かにここのところすごく眠い。

 訓練の後、シャワールームに行くのを億劫に思うくらいには。

 フォース学園長曰く、魔力が急激に成長している時に起こる現象なんだとか。


「聞いてないならないでまぁいいだろうと思ってそのままにしていたがな」

「そっちが本音ですね!!」

 膨れっ面でそう言うと、少し罰が悪そうに視線を逸らしてから

「……まぁ、そういうことだ。最低限の荷物をまとめておけ」と言って、騎士たちの元へ歩いて行った。


 こうして私の、初のクロスフォード先生のお宅訪問が決まった。


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