This is Halloweenー企画ー

 今日の食堂もたくさんの騎士や学生の声がひしめき合って賑わいを見せている。


 最近は隠すことなく私を生徒たちのいる食堂にも連れていくようになった先生。

それでも10歳の子どもが混ざっているというその異質な光景に相変わらず視線は突き刺さり、先生は不快そうに眉間に渓谷を作っている。


「おーい、ヒメー、シリルー」

「二人とも、こっちにいらっしゃいな」

 どこからともなく私と先生を呼ぶ声が響き、誘われるがままに円形のテーブルに着くと、いつもの二人、レイヴンとレオンティウス様が、珍しくアレンと一緒に食事をとっていた。


「アレンが二人と一緒にいるの、珍しいですね」

 私は先生と隣合ってテーブルにつく。

 

「たまたま一緒になってね」

 穏やかなアメジスト色のタレ目をさらに下げ、アレンが言う。

「幼なじみなんだから、たまには交流しようぜってな」

 そう言って笑いながらアレンの背中をバンっと叩くレイヴン。


「ちょうどよかったです!!」

 

「何が?」

「実はですね、もうすぐハロウィンなので、パーティをしようと思ってまして」


 私は、メニュー表に触れるとテーブルの上に一瞬にして現れた熱々のハンバーグを、いただきます、と両手を合わせてからパクりと一口、口に放り込む。

 口の中で肉汁が溢れると共に肉がとろけていく。 


 この世界の日付は私の元いた世界と同じものだ。

 1年は12ヶ月だし、季節も日本のように春夏秋冬4つの季節が巡る。

 もっといえば食べ物も大体が同じようなものだった。

 時々変な名前と見た目の食べ物もあるが……それには敢えて手を出さないようにしている。


「ハロウィンて何だ?」

「え? ハロウィン、無いんですか? じゃぁ、クリスマスは? お正月は?」

 驚いて隣でコーヒーをすする先生を見上げると、先生はゆっくりと首を横に振って言葉を放つ。


「そんなものはない」


 四季は同じなのにまさかの季節イベントがないという想定外の事態に、ハンバーグを口に持って行こうとする手が止まった。


「じゃぁ尚更やりましょ、ハロウィンパーティ!」

「おぉ!! なんかよくわからんが、パーティみたいな賑やかなのは好きだぜ!!」

 こう言う時ノリがいいレイヴンがいると助かる。

 1番に味方になってくれる頼もしい人だ。

 

「さすが、忠犬」

「誰が忠犬だ!!」


「で? ハロウィンパーティてどんなパーティなんだ? 舞踏会みたいなのか? なら、うちのホールでも使うか?」


 予想だにしていなかった大規模な発想に、口に含んだばかりのミルクが出てくるところだった。

 普段忘れがちだけど、この人は一応公爵家の坊ちゃんだ。

 本当、忘れがちだけど。


「違いますよ! いろんなコスプレをして、トリックオアトリートを合言葉にお菓子をもらったりあげたり、ハロウィン仕様のお料理を食べたりして楽しみます」

「コスプレって?」

 レオンティウス様がスープを飲む手を止めて興味深げに尋ねる。


 あ、この人たち普段からコスプレみたいな格好してるんだった。

 言った後から気づき、どう説明しようかと視線を彷徨わせる。


「えっと、仮装です。狼男とか、ミイラ男とかの妖怪系や、妖精や魔女の格好をしたりします!」

「へぇ、面白そうじゃん!! よし、じゃ俺は妖精の王とか──」

「あ、レイヴンは狼男でお願いします!」

 私は間髪入れずにレイヴンの言葉を遮った。


「なんでだよ!!」

「私が、レイヴンのかっこいい狼男姿が見たから、ですよ」

 そう言ってにっこり笑うと、レイヴンはまんざらでもなさそうに

「そ、そうか? よし、なら早速準備しなきゃな!! 俺のとびきりかっこいい狼男姿、楽しみにしてろよ!」

 と言いながら走り去っていった。


 ちょろい。


「あんた、あいつの扱い方上手くなったわね」

「本当に、文字通り忠犬だな」

「ヒメはやっぱり面白いなぁ」


「いいんです、なんと言われようと。だって私が見たかったんですから!! レイヴンの狼男!!」


 間違いない。絶対に似合う。

 先生たちが私をなんとも言えない表情で見ているが気にしない。


「それで、そのパーティはいつあるの?」

「10月31日です」

 ちょうど一週間後だ。

「わかったわ。あいつに伝えておくわね」

 硬い机の上に頬杖をつきながらレオンティウス様がにっこり笑う。

 今日も安定の色気ダダ漏れ状態だ。


「アレンも、シリルも参加だからね? 逃げんじゃないわよ、特にシリル」

 釘を刺すレオンティウス様に、先生はめんどくさそうに「はぁ」とため息で応えた。

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