名画のようにパリで恋して ― Fall in Love in Paris ―

スイートミモザブックス

#プロローグ

 60代を迎えようとしているエリザベス・ハートは、夫のエドワードと沈みゆく夕陽をながめている。

 ここはふたりで力をあわせて大きくしてきた、〈ザ・ハート ホテル&リゾーツ〉のひとつ「マリブ」にあるプライベートビーチだ。

 言葉を交わさずとも、ふたりは、出あいから今日までの日々に思いを馳せているようだ。

 少なくとも、エリザベスはそうだった。エドワードはいま、どんな気持ちでいるのかしら……

「あの子もついに結婚か、正直驚いたよ。でも本当によかった」エリザベスの心の声が聞こえたのか、エドがしみじみ言う。

「本当ね、まるで夢のよう」やわらかな吐息とともに、エリザベスがつぶやいた。「幸せだわ」

 エドワードが手をとりこちらを向いた。

「こんなにも穏やかで、満ち足りた笑顔を向けてくれる妻になると、むかしのぼくが知っていたら……」にやりと片頬を緩めた。小さな傷がまるでえくぼのようだ。

 ふたりはもうしばらくこの夕空をながめていようと思った。

 今夜のパーティまではまだ少し時間がある。

「そうね、あなたがこんなにもすてきだなんて、わからなかったから」エリザベスもいたずらっぽく答えた。

 そう、ふたりは知らなかったのだ。こんな未来が待っていることを。

 あの激しくも熱い、若き日の出会いの頃には……。

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