第121話 じゃあさ、今度うちに来てくれないかな
「ヒルデちゃん、この子が新しいご領主さまのお嬢さんのティナだよ」
ヒルデちゃんは私の隣の空いた席に座り、そのまま他の子が入れてくれたお茶をひとすすりして、私が持ってきたお菓子を一つ頬張った。
「あ、このお菓子おいしいー。あ、初めましてー、ティナちゃん。ヒルデちゃんだよー」
「ティナです。よろしくね」
ヒルデちゃんって、なんだか独特の雰囲気のある子だな。
「ティナちゃんは普段何をしている人なのー」
「今は人が足りないからお屋敷の手伝いとか、あとは時間を見つけて馬に乗る練習とかしているかな。ヒルデちゃんは?」
「うーんとね。私の家は山で香辛料を作っているのー。でも、なかなかみんな買ってくれないんだよー。特にクリスタちゃんなんてちょびっとだけなんだー」
「だって、ヒルデちゃんのところの香辛料は辛いじゃん。料理にたくさんいれたら食べられなくなっちゃうよー」
「ぶー」
メルギルの料理に使われる香辛料は、アクセント程度にしか使わないから量はそんなにいらないんだよね。
「ヒルデちゃんのところには、香辛料商人が買付に来ないの?」
ハンス船長はクル(カレー)を作るために南部から香辛料を仕入れていると言っていた。たぶん商人がこっちで仕入れて王都で売っているんだと思うんだけど……
「買いに来るよ―。いつももっと買ってって頼むんだけどー、余っちゃうからと言って買ってくれないんだー」
おかしい。ハンス船長の言っていることと話が違う。……もしかしてヒルデちゃんのところで作っている香辛料はクルに使わないのかな。
「香辛料って何を作っているの?」
「うちでは色々作っているよー」
とりあえず、主に作っている物を聞いてみたいんだけど、その名前には聞き覚えがあった。アレンが言っていたクルに使う香辛料がいくつか含まれていたのだ……でもなぜ?
もしかして海軍でクルのレシピを秘密にしているから、商人の人もどうして海軍で香辛料を買っているのかよくわかってないのかな。だから余分に仕入れていかないのかも。
まあ、とりあえず香辛料を作っている農家さんは分かった。あとは量を集めることができたらアレンと考えている計画が進められる。
「ねえ、ヒルデちゃん。作る量を増やすこともできるの?」
「毎年植えるやつは植える場所を増やしたらいいけどー。木のやつは育つまで時間がかかるんだー」
そっか、木のやつもあるんだ。
「でも、木のやつは毎年余っているから少しくらい増えても大丈夫かもー」
それなら、量はある程度確保できるのかな。
香辛料については、アレンが王都からこっちに来てから調べるって言っていたけど、今日でかなり分かった。
「ねえティナ、そんなこと聞いてどうするつもりなの。ヒルデちゃんのためになるかもしれないけど、用もないのに香辛料をたくさん買っても使い道に困るよ。確かに他の食べ物よりは長持ちはするんだけど、古くなると風味が落ちて美味しくなくなっちゃうよ」
「クリスタ、心配しなくても大丈夫。使い道はちゃんとあるんだ。ねえ、みんな聞いて。クルっ知っている?」
こちらをみんな見てくれたけど、私から離れている子たちはなんのことかわかってない様子だ。
ちょっと唐突過ぎたかな。
「なあ、ティナ。そのクルっていうのはなんだ。初めて聞くんだが、話の様子じゃ、ヒルデの香辛料と関係があるんだろう」
よかった。ルカが聞いてくれたことでみんなの注目がこっちに集まった。
「うん、関係あるよ。クルと言うのは海軍で食べられている料理のことで、その材料はこの辺りで採れる香辛料なんだ」
「なあ、ヒルデ。知ってたか?」
「聞いたことないかもー」
「他の誰か知っているか?」
ユッテ以外のみんなが首を横に振った。
「じゃあさ、今度うちに来てくれないかな。みんなに食べてもらいたいんだ。ものすごく美味しんだよ」
お母さんがアレンからクルの作り方を習っていたのを知っている。その後こっそりと練習していたみたいだから、そろそろ振舞いたくてうずうずしているはずだ。
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