第110話 皆さん僕について来てください

「レオンさん、この資料には香辛料についても書いてますけど、人が少なくて調べるの大変だったでしょう?」


 私たちは引き続きお父さんの部屋で領地の事を聞いている。


「はい、アレン様。領内に香辛料商人がおりましてその者に調査を依頼したのですが、いまだ精査ができておりません。詳しい産地と収量の確認についてはこれからでございます」


 レオンさんもお屋敷の仕事もしないといけなかったはずだから仕方がないよね。


「そっか、それはボクがここに来てからやってみるよ」


「そうしていただくと助かりますが、足はどうされるおつもりでしょうか?」


 そうだ、人手が足りないのなら馬車で移動するのは難しいと思う。


「うん、こっちにいる間にルーカスに馬の乗り方を習うことにしているんだ。乗れるようになったら自分で移動できるから大丈夫だよ」


 アレンは早速、馬に乗る気満々だ。






「というわけで、馬に乗りたいんだけど、エディも手伝ってくれるかな」


 私とアレンは昼食が済んだ後、ルーカスさんと一緒に馬小屋に向かった。馬番のエディにも協力してもらおうと思ったのだ。だって、遊牧民の出身だし、あの若さでここまで一人で来たんだからきっとうまいはずだよ。


「ぼ、僕がですか!」


「うん、私に馬の乗り方を教えてほしいんだ」


「私からも頼む、私がアレン様に教える横で君がティナ様に教えてもらえないか。私のは軍隊の乗り方だから、ティナ様が使うには少し荒々しいんだよ」


 軍隊の乗り方とかあるんだ。一応馬に乗れるようにズボンを履いては来ているけど、それだけじゃダメなんだろうね。


「は、はい! わかりました。ティナ様と言うことはお母さんたちが乗る感じですね」


 お母さんたちと言うことは遊牧民の女性の乗り方なのかな、どんな感じだろう。


「それで、練習するのにどこかいい場所を知っていたら助かるんだが……」


「あ、それなら。この前見つけた広場が森の向こうにあります」


 エディは屋敷の裏に広がる森を指さした。







 エディとルーカスさんはそれぞれ馬房から馬を連れ出し、出発の準備を整える。


「ティナ様は馬に乗られたことはありますか?」


 エディは黒っぽい綺麗な毛並みの馬を私の目の前に連れて来た。(あとから聞いたらこの馬の毛色は黒鹿毛くろかげって言うんだって、ちなみにルーカスさんの馬は茶色っぽい色で呼び方は栗毛というみたい)


「ううん。全く無いよ」


「それでは、一度僕が乗るところを見ていてください」


 そう言うとエディは左手で手綱たづなを掴み、左足をあぶみにかけ、右足で勢いよく地面を蹴って馬に乗った。


「「おぉー」」


 思わずアレンと二人で拍手をしてしまった。


「こ、これができないと馬に乗れませんから」


 エディは照れているのか、顔が真っ赤になっている。


「でも私、できそうにないよ」


「馬の背中に飛び上がることはできますか? ……えっと、一度やってみますね」


 エディは馬を降り、くらに両手をかけそのまま体ごと飛び乗った。胴体を鞍の上に乗せ、足はプラプラした状態だ。


「こんな感じです」


「やってみる!」


 これなら何とかできそう。

 エディが降りた後、馬の横に立つ。高そうだとは思っていたけどやっぱり高い……


「勢い付けないと無理な気がするんだけど、この子怒らないかな」


 助走をつけたら何とかいけそうだけど、馬が暴れたら大変だ。


「大丈夫。こいつが子馬の頃から世話しているから、僕が近くにいたら暴れません」


 この子がエディと一緒にやってきた馬なんだ。


 馬に乗れるようになったら、アレンと一緒に領地を回ってお弁当を食べて……そのためには一人で乗れるようにならないといけない。


 よし!


「びっくりしないでね」


 馬に一声かけて、勢い付けて馬に飛び乗る。


「よし、いけ! あー……」


 アレンの声援もむなしく、あと少し届かなかった……


「あの、アレン様……」


 それを見たエディはアレンのところに行って、何か話している。


「うん、助けてあげて」


 何か知らないけど、エディが助けてくれるみたい。


「ティナ様、もう一度やってもらえますか。今度は僕が補助します」


 戻ってきたエディがそう言うので、もう一度やってみる。


 助走をつけて、馬に向かう。

 タイミングを見計らって、ジャンプ!

 二回目だからか、さっきよりも高くいけそう!

 さらに、馬にとりついたところでエディが私の体を押し上げてくれて、何とか鞍の上に体を乗せることができた。


「ティナ様、そのまま、またがることはできますか?」


 ここで落ちたらもう一度なので、鞍を掴んだまま慎重に右足を反対側に持って行く。

 たぶん、これで馬に乗れたはずだ。


「いいですね。それでは失礼します」


 そう言うとエディは私の前にひょいと乗って来た。エディの足が私に当たらないように軽々と……

 私もこんなに簡単に乗れるようになるんだろうか?


「ルーカス様、こちらの準備はできました」


 その言葉を聞いて、今度はアレンが馬に乗る。

 こちらはエディが乗るところを見ていたからか、それとも体が覚えていたのか、すぐに乗ることができた。


「エディ君、こちらの準備もいいよ」


 ルーカスさんもアレンの前に乗り、いよいよ出発だ。


「皆さん僕について来てください。ティナ様は落とされないように僕にしっかりと掴まって下さいね」


 エディは馬に合図を送った。

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