第94話 私も一緒にお風呂に入って差し上げます!
「ティナ、その支度金は元々はメルギルの屋敷を新しくするためのものだろう。道が大切なのはさっきの話でわかったが、アレン様を小さな屋敷にお呼びするのが、私はどうしても申し訳なくてな……」
お父さんは支度金は私とアレンの好きにしていいって言っていたけど、やっぱり新しいお屋敷が欲しいのかな。
「コンラートさん、今あるお屋敷もそれなりの大きさなんでしょう? 家族と使用人が住むにはそれで十分だと言っていたと思うんですが、お父さんが言うようにそれ以上大きなお屋敷が必要なんですか?」
「そうだね。王都と違って地方の貴族の屋敷には、住むための場所があったらそれでいいというわけではないんだ。領地の中に舞踏会を開けるような場所が他に無いのなら、自分の屋敷の中にそれを作っておく必要があるんだ。男爵家だと大きな屋敷を維持することも大変だからそこまで気にしなくていいけど、伯爵家以上では無いのはおかしいかもしれないね」
そうか、王都みたいに貸しホールは無いんだ。
「カチヤのお屋敷に大広間が無かったのは男爵家だったからですか?」
「カチヤの場合は単純に必要がなかったからじゃないかな。あそこは土地は狭いけど交易の収益があるから他の男爵領に比べても裕福なんだよ。だから、大広間付きの屋敷くらいいつでも作れたし、維持だって問題なくできたはずだ。ただ王国の西の果てだから、他の貴族が来ることもないし、王族もめったに行かない。舞踏会を開いても誰も集まらないから、歴代のカペル家の当主も屋敷を広くしようと考えなかったんだと思うよ」
「確かにあまり人は来ないけど、カチヤは静かだしのんびりできていいところだよ」
王都からカチヤに行くには、途中いくつかの山を越える必要がある。それに町には娯楽施設なんかもないから、お父さんの言う通り、来る人のほとんどが交易を目的にした人たちだ。港町だからお魚はおいしいけど、こちらの世界ではわざわざそれを食べるために旅行するような人はいないんだよね。確かにそれなら、お屋敷も自分たちが使う広さがあれば十分だ。
でも、これから行く南部も人があまり来ないって言っていたと思うけど、そういうところでも必要なのかなあ。
「確かに、普段使うことはほとんどないだろうね。ただ、こういう大広間は国王陛下の
なるほど、王様が来た時のためか。そういう理由なら仕方がないのかな。
コンラートさんによると、男爵領には王様が行くことは無いけど、伯爵以上の爵位を持っているところには行く可能性があるんだって。だから、地方にある伯爵以上の貴族のお屋敷は、どこも大広間を構えた大きなものを作るらしい。ほんと、貴族の世界はめんどくさいよ。
「わかりました。すぐには無理かもしれないけど、アレン様に伝えておきます」
でも、新しいお屋敷は後回しだろうな。アレンは、まずは道を良くして物と人の往来を増やすことをしないといけないって言っていた。どうしてって聞いたら、人やモノが動いたら街が発展していってさらにそれを目当てに人が増えていって、さらに街が大きくなるんだって。だから、王家から貰えるお金も道に使ってほしいと頼んだのだ。
大きなお屋敷を作れるようになるのは、街が大きくなってカペル家に入ってくる収入が増えてからじゃないかな。そう遠くない未来だといいんだけど……
「ティナ、頼んだよ。それじゃ、今日はそろそろ……」
「お父様! もう、お話は終わりですか? それではお姉さま。今日はお疲れでしょうから、私も一緒にお風呂に入って差し上げます! 早速参りましょう!」
フリーデが、さっきからなんだかソワソワしていたように見えたのはこれだったのか。
「こら、フリーデ! ティナを困らせてはダメですよ」
「カミラさん、大丈夫です。フリーデ、久しぶりだね。一緒に入ろう!」
フリーデは『やったー!』といって抱きついてきた。
パーティーの準備(主に踊りの練習)で、ここ最近フリーデにあまり構ってあげられなかったんだよね。今日くらいは一緒にお風呂に入ってたくさんお話しよう。
「では、ティナ様すぐにお風呂の準備をしてまいります」
「あ、エリス、私も手伝う。フリーデも一緒に行こう」
「はい、お姉さま!」
今日のお風呂は賑やかになりそうだ。
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