第81話 お、なかなかいい感じかも
アレンがリハビリに使っているワゴンは、食器や料理を置いていた台のところをくり抜いて、アレンの体を入れられるように加工してある。私の時はワゴンをそのまま使ったんだけど、王宮御用達の鍛冶屋さんがいると言うので、せっかくだから使い勝手がいいように改造してもらったんだよね。ただ、リハビリ用の歩行器として作られているわけではないので、アレンが掴むと少し重心がズレる。さらにワゴンには車が付いていて思いのほか動いてしまうこともあるから、転んでアレンがケガしないようにクライブが支えておく必要があるのだ。
「兄上、いいですか」
アレンが掴み上半身を預けた改造ワゴンをクライブがゆっくりと動かす。そして、私とエリスでアレンを後ろから支え、それについていく。
「お、なかなかいい感じかも」
アレンの足は、まだ自分の力で立つことも歩くこともできないけど、ワゴンに合わせて動かすことができるようになってきた。ほんの少しでも前に進んでいるのは確かだ。
「アレン様、そろそろ休憩しましょう」
部屋の中を一周したところでエリスが提案してきた。
「もう少しと言いたいところだけど、エリス先生には従っておこうかな」
一度にやるんじゃなくて、休むことも大切だからね。
アレンをベッドに座らせ、私たちも椅子に腰かける。
「お茶を入れ替えますね」
「いいよ、まだ残っているから。エリスちゃんもゆっくりしてて。それよりもクライブ、教皇国の話はどうだったの?」
私も気になっていたけど、せっかくアレンが頑張っているんだから、水を差したくなかったんだ。
「さっき父上が話してくださいました。外交に関することだから、お前も知っておいた方がいいだろうって」
あれ、外交に関することなら、私たちが聞いていいのかな。たぶん機密事項だよね。
「あ、そのことも聞いてみたけど、カペル家は当事者だし、ティナはあの時の功労者だから少しは話していいって言われたよ」
おお、そうなんだ。
ということで、クライブはエルマー殿下に許可された範囲で私たちに話してくれた。
「つまり、教皇国で王様が変わったってことなの?」
「王様というか教皇がね。そして、この前の戦争は前の教皇が反対を押し切って始めたことなので許してほしい。その代わり少しだけど賠償金を送りたいと言っているみたい」
「少しなんだ……」
カチヤの人たちはかなり大変な目にあったよ。少しじゃ足りないんじゃないかな。
「あちらも前の教皇のせいで国がガタガタだから、多くは出せないんだって」
そうか……でも、お金を払うっていうことは、悪いことしたって反省しているってことだよね。
「教皇国は王国への野心が捨てきれないみたいだね」
「えっ! そうなの?」
アレンが、私が思っていることと正反対のことを言ったので驚いてしまった。
だって、謝って、お金までくれるんだよ。あきらめているんじゃないの?
「うん、これから王国では教皇国を警戒してカチヤの防御を固めていくことになるよね。そうされると次攻めようとしても簡単にはいかなくなるから、もう危険はないですよ、余計なことはしないでこれまで通りでいてくださいねことじゃないかな」
「さすが兄上、父上もそう話されてました」
「そういうクライブだって、そう思っているよね」
「はい、教皇国の国の
さすが国を治めていこうとする人たちの考え方は違うな。
「それじゃ、教皇国の申し出は断るの?」
「いや、貰えるものは貰っていいんじゃない。ハーゲンさんもカチヤの復興にお金を使っているはずだよ」
「父上もカチヤの強化にはお金がかかるし、カペル家の移転費用もいくらか補助しないといけないから、ありがたく頂戴しようって言ってました」
移転か……お父さんは少しは貯えがあるから大丈夫だと言っていたけど、いったいどれくらいのお金がかかるんだろう。引っ越し代だけで済む話じゃないだろうし、一度調べてみてもいいかもしれない。
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