第68話 恋に時間は関係ありません

 その時から誰が協力者になってくれるのか、みんなで考えることにした。

 エリスの気持ちについては、まだハッキリと固まっていないかもしれないけど、クライブがしっかりと気持ちを伝えたら大丈夫じゃないかと思う。本当は時間をかけてあげたいんだけどね。正直、この二人を待っていたら、時間切れでクライブと結婚しないといけなくなりそうなのだ。


「ち、ちょっと待ってくれ、ティナ。アレン様とだって!?」


「はい、コンラートさん。私はアレン様と一緒になりたいと思っております。また、アレン様もそう思ってくださっているようです」


 早速その日の夕食後、私はコンラートさんに相談することにした。領地の資料をアレンに見てもらうためには、コンラートさんの協力が不可欠なのだ。


「信じられん。アレン様が目覚められて、そう日も経っていない。いくら、毎日お会いになったからといって、こんなすぐに決めきれるものなのか?」


 私とデュークとはもう半年以上一緒にいるけど、このことを知っているのはエリスとクライブだけだから、コンラートさんが不思議に思うのも仕方がないと思う。


「あなた、恋に時間は関係ありませんよ」


「ティナお姉さま、素敵です! 王子様と一緒になれるのは目覚めさせることができたお姫様だけですよね」


 そういえば、地球でそういうお話があったと思うけど……あれは眠りについていたのはお姫様の方じゃなかったかな。あれ、でも、永い眠りについていた私を起こしてくれたのはデュークの声で、デュークは王子様のアレンかもしれないから……お話と一緒と言えば一緒なのか。私がお姫様じゃない事を除けば。


「もし、ティナがアレン様と一緒になったとすると、クライブ殿下のお妃候補を一から探さないといけなくなる。ここまで来て陛下の許しが貰えるのだろうか」


 やっぱり王様の説得が大変なのかな。でも、これを乗り越えないと先が無いんだよね。


「コンラートさん。実はクライブ殿下は、エリスのことを気に入ってるようなのです」


 ここにいる全員が『えっ!』と言ってエリスの方を一斉に見た。


「……」


 いつもなら、スンとして私たちの話に興味のない風にしているエリスも、赤い顔をして俯いている。


「……エリスもこの様子ならまんざらでもないようね」


 カミラさんの言う通り、普段のエリスを知っている人ならこういう感じは珍しいからすぐわかっちゃうよね。


「それで、コンラートさん。どうしたら王様を説得できるかご存じありませんか?」


「説得と言われても、軍事のことならともかく、王族に関することに我々がどうこう出来るとは……」


「あなた、何言ってるのですか。このままだとティナは好きな人と一緒になれないのですよ」


「そうです、お父様。今日初めてクライブ殿下にお会いしましたが、ティナお姉さまよりもエリスの方が合っていると思います!」


 よかった。カミラさんとフリーデは、話したらきっとわかってくれると思って、みんなが揃っているタイミングで話してみたけど、力になってくれそうだ。


「しかし、私が陛下に言っても聞いてくださるとは思えないのだが」


「あなたはダメでも、大丈夫な人をご存じではないのですか」


「大丈夫な……あっ! あの方ならもしや」


 そして、コンラートさんの口から驚くべき人の名が告げられた。






「えっ! ハンス船長!?」


「ああ、船長は陛下と同い年でね。陛下が初陣の時に一緒に戦って以来友人関係にあるのだよ」


 なんでも初陣の後、個人的に親交を深めるうちにハンス船長の妹さんを見染めて、王様はお妃にすることを決めたらしい。


「私も小さかったからハッキリとは覚えていないのだが、あの時は確か、王宮では陛下に別の婚約者を発表しようとしていたんじゃなかったかな」


 今の私たちと状況は似ているかも。


「王様はその時どうされたのですか?」


「うーん、先代の私の父なら知っていると思うが、すでに鬼籍きせきるからね。それこそ船長ならわかるんじゃないか」


 早いうちにハンス船長に会う必要があるみたいだ。


「ティナ、私もビアンカお姉さまにそれとなく言ってみるわね」


 カミラさんから王妃様に言ってもらったら、きっと王妃様も協力してくれると思う。


「お姉さま、このことは?」


「まだ、内緒でね。クライブに会っても知らないふりしてくれると助かるな」


「分かりました。学校でも普通にしていたらいいのですね」


「お願い」


 ウェリス家のみんなの協力は得られそうだ。あとは、ハンス船長と話して、時間までに王様を説得できるかが鍵だな。

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