第64話 すごい! 全く揺れない!
初めての学校が終わり、私はクライブと一緒に王家の馬車に乗って王宮へと向かっている。
「すごい! 全く揺れない! エリスが気になっていたのがわかるよ」
ウェリス家の馬車の乗り心地も素晴らしいんだけど、王家の馬車は別格だった。
「この馬車には、外国の貴人もお乗りいただくことがあります。私も詳しくは存じませんが、部品の一つ一つが、吟味して作られているようです」
おぉー、いわゆるリムジンというやつなのかな。
「私も、クライブ様のお供の際に乗せていただくのが楽しみなんですよ」
馬車の中には、二人の近衛兵のお兄さんたちも同乗している。ちなみに、最初に話したのがファビアンさんで、あとから話したのはルーカスさん。二人とも28才で、肩には白に4本の同じ階級章がついていた。あー、キースさんの方が階級は上なんだ。色が赤だったからね。
階級章は船から降りた後、気になって詳しく調べてみたんだ。数は1本から5本、色も白、赤、黒の三色に分かれていて、合計15の階級があるみたい。でも各色の5本は王家の皇位継承者のみが付けることができるから実際は12の階級。白は三色のうちで一番低いから、ファビアンさんとルーカスさんの階級は下から4番目ということだね。
「えっと、お二方とも、クライブ殿下とのお付き合いは長いのですか?」
「ええ、私たちは入隊して間もなく、年も近いということもあってアレン様とクライブ様の担当になりました」
「その時のアレン様が8つ、クライブ様が6つで、お二人で駆けまわっている姿は、それはもう可愛らしくて――」
アレンが8才ということは今から10年前、ということは二人が18歳の時か。ほんと入隊してすぐに近衛兵に配属されたんだね。それにしても、二人とも身振り手振りで話してくれるんだけど、アレンとクライブの小さい頃の姿が手にとれるようだよ。
とまあこんな感じで、今日はクライブといろいろと打ち合わせをすることはできないんだけど、代わりに面白い話を聞くことができた。
「それで、アレン様が急に見えなくなったものですから、クライブ様は――」
「や、やめてよ。そんな昔のこと……」
おー、照れてる、照れてる。
「いえ、ティナ様とは長いお付き合いになります。クライブ様のことをよく知って頂かなくてはなりませんからね」
長いお付き合い……うーん、これは、やっぱり王宮では、私のことをクライブのお嫁さんとして認識しているのだろうか。
「うー、恥ずかしかった。あのねティナ、二人は時間を見つけては僕と兄上とよく遊んでくれていたんだ」
そんなに昔から近くにいたのなら、アレンの事もよく知っているかな。
「お二人から見て、アレン様のご様子はいかがですか?」
「アレン様が目覚められたと聞いて、先日二人でご挨拶に行かせていただきました。残念ながら昔のご記憶は無くされておられましたけど、時折見せられる仕草は子供の頃のままで安心いたしました」
体に染み付いた記憶ってあるからね。やっぱりデュークはアレンだったのかもしれない。
それから、いつもよりも外の音が気にならない馬車の室内で、クライブに嫌がられながらもアレンとクライブの子供の頃の話を聞いていたら、ファビアンさんとルーカスさんが急に真面目な顔をして私の方を向いてきた。
「ティナ様、そろそろ王宮に到着いたします」
相変わらず、馬車の中から外を見ることはできないけど、王都のことを知り尽くしている近衛兵の人たちが言うんだから、もうすぐ到着するとは思うけど、わざわざこのタイミングで二人ともそんな顔をされたら少し身構えてしまう。
「ティナ様。差し出がましいお願いだと存じますが、ティナ様と会うようになり、クライブ様は変わられました。それに、アレン様もティナ様に会ってすぐに目覚められ、王宮自体も明るくなっております。どうか、これからもクライブ様を隣で支えてやって下さい」
そう言って、ファビアンさんとルーカスさんは私に頭を下げてきた。
やはりそのことだった。
「頭をお上げください。私は、クライブ殿下と仲良くさせていただこうとは思っておりますが、隣でというのは……」
「そうだよ二人とも、僕とティナはそんなんじゃないから!」
「殿下、ティナ様。恥ずかしがらなくても、みんな知っておりますよ。万事、王宮の者たちにお任せください!」
うーん、これは、色々とはっきりさせないと取り返しのつかないことになりそうだぞ。
王宮に到着した馬車は、クライブとファビアンさんを王族の方々が出入りする入口で降ろした後、私をいつもの裏口で降ろしてくれた。
「ルーカスさん。ありがとうございました」
「いえ、ティナ様。これからもアレン様、クライブ様のことをよろしくお願いいたします」
ルーカスさんと別れ、いつものように身体検査をした後、使用人用の入り口から王宮へと入る。
王宮の中では、アレンの部屋まで侍従さんが連れて行ってくれるから迷うことは無いんだけど、クライブと二人っきりで相談したかったな。
クライブは、『おじいさまに挨拶してからすぐ来るよ』って言っていたけど……先にアレンに話してみるか。
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