第24話 王家の人たちは大変なんだね

「それではセバス、ティナとみんなを頼むよ。私はしばらく帰れそうにないから」


「畏まりました旦那様」


「コンラートさん。お父さんとお母さんを、カチヤの町をよろしくお願いします」


『任せておけ』と言ってくれたコンラートさんを軍務省に残して、迎えに来てくれたセバスチャンさんと一緒にウェリス家へと向かう。


「ティナお嬢様、よろしゅうございました。あとは旦那様にお任せしていれば安心でございます」


 もう、私にできることは無いから、後はみんなに任せるしかないよね。っと、そうだ。


「セバスチャンさん。お聞きしたいのですが、なんであの場所に皇太子殿下がおられたのですか?」


「それは、王国の兵は王族しか動かせないからです。貴族の私兵は所有している貴族が王家の許可を取って動かす事ができるのですが、今回のように王国の軍を使うときには王族のどなたかが総司令官になられます。ちなみに今の王国で兵の指揮を取れるのは、国王陛下と皇太子のエルマー殿下だけになります」


 なるほど、カチヤを救ってくれるのは王国の兵で、その責任者がエルマー殿下というわけか。


「そういえば、皇太孫こうたいそん殿下もそろそろ初陣のはずですから、今回の作戦に参加されるかもしれませんね」


「皇太孫殿下?」


「はい、エルマー殿下のお子様になられます。殿下の後、国王になられる予定の方です」


 へえ、エルマー殿下には初陣に出せるような子供がいるんだ。ということは、やっぱりデュークが言ったくらいの年なのかな。


「その初陣って、何歳くらいからでるんですか?」


「そうですね。男は15才を過ぎますと成人として扱われます。今の皇太孫殿下は、先日16才になられたばかりですから時期的にはちょうどいいのですが、あとは作戦に合うかどうかですね」


 16才か、初陣というからもう少し上かと思ったら、私と同い年なんだ。もうその年で戦わないといけないとは、王家の人たちも大変だ。

 でも、今回の作戦は奇襲を行ったり、相手をうまく引き付けたりしないといけないから、初陣には向かないんじゃないかな。皇太孫さんがどんな人か知らないけど、まだ若いんだからゆっくりと経験していったらいいのに。


(まだ子供なのに、王家の人たちって大変なんだね)


(うん、でも国の人たちを守っていかないといけないから、仕方のないことだと思うよ)


 そういうものなのかな。高貴な人には高貴な義務があるのかもしれないけど、私は目の前のことで手一杯だよ。





 馬車の外の音が静かになって来た。きっと、貴族街に入ったんだろう。そして、しばらくすると馬車が止まり、セバスチャンさんが外に出て私を降ろしてくれた。

 セバスチャンさんが開けてくれた屋敷のドアの前には、馬車の音を聞き付けていたのかエリスとフリーデが待ち構えていた。


「「どうなりました!」」


「うん、カチヤを助けてもらえるようになったよ」


 入ると同時に抱き着いてきた、フリーデの柔らかな髪を撫でながら答える。


「ほんと! よかったわね」


 カミラさんも食堂から出てきた。みんな私を待っていてくれてたんだ。


「はい、後は兵隊さんたちにお任せするだけです」


 詳しく話を聞きたいというので、みんなで二階のカミラさんの部屋へと行くことになった。





「ありがとうございます、レオンさん」


「ねえねえ、お姉さま。早く続きを聞かせてくださいまし」


 紅茶を入れてくれたレオンさんにお礼を伝え、再び話を続ける。


「えっと……そうそう、私の席を探したら空いている椅子が一つしかなくて、それがお髭を生やしたおじさんの隣で、なんとそのおじさんは国王陛下だったんだよね」


「陛下とお話されたんですね。私は小さい頃に他の貴族の子供たちと一緒に遠くから眺めただけですけど、優しそうな感じがしました」


「そうね、あの方は子供には優しいわね」


 子供には、か……確かに目つきは鋭かったんだよなー。


「カミラさんは国王陛下をご存じなのですか?」


「そうか、ティナは記憶を無くしていたわね。今の陛下の奥方は私の二つ上の姉なのよ」


 衝撃の事実だ。アメリー母さんからも聞いていない。どうやら、カミラさんとアメリー母さんのお姉さんのビアンカさんは、国王陛下の前の奥さんが亡くなられた後に見染められて結婚したらしい。


「それでは、今日お会いした皇太子殿下は私といとこになるのですか?」


「いえ、姉に子供はいないわ。というか、作っていないというのが正しいわね。皇太子殿下は亡くなられた前の王妃様の子供よ。第一、年齢がおかしいでしょ」


 そういえばそうか、皇太子殿下には16才になる子供がいるんだった。デュークの予想が正しければエルマー殿下は36才。カミラさんが40才だから、ビアンカさんは42才。さすがに6才の時の子供ということは、ここが異世界だとしてもありえないよね。


「よかった。次会うときに、どんな顔してあったらいいかわからないところでした」


 まあ、国王陛下や皇太子殿下にそうそう会うこともないよね。


「でも、この家は姉に近いから。結構、無理を頼まれることも多いのよ」


 そうか、貴族の間では、信頼置ける人を持つことが大事だって聞いたことがある。国王陛下にとってはこの家がそうなのかもしれない。


 コン、コン!


「この音はセバスチャンよ。どうぞ」


 フリーデもうなずいている。レオンさんとの区別がつかないな。ノックの音での判別は私にはまだ無理みたいだ。

 ドアが開き、くだんのセバスチャンさんが入って来る。


「奥様。旦那様より急ぎの手紙が届きました」


「何かしら。今日は戻らないのよね」


 カミラさんは受け取った手紙を読み、目を見開き、そして思いもしなかった言葉を発した。


「ティナ、大変よ。急いで出かける準備をして、国王様からお呼びがかかっているわ」


 もしかして、これがさっきカミラさんが言っていた無理難題の一つなのかな……

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