第15話 ティナお姉さまって天才だったのですね!
「わかったわ。アメリーたちのことが心配だけど、あなたたちが無事で本当によかった」
「それで、お父さんとお母さんを……カチヤの町をいつ助けに行ってもらえるのでしょうか?」
「今、うちの人が王城に呼ばれているのよ。きっと、そこで話し合われていると思うから、戻ってきたら聞いてみましょう」
すぐにでもカチヤの町に向かってくれたらいいんだけど。
「お母さま! ティナが来ているんだって!」
突然ドアが開き、金髪の少女が入って来た。
「何ですかフリーデ、はしたない!」
フリーデちゃんというのか、長めのストレートヘアで可愛らしい子だな。あとから髪を触らせれもらえないかな。
あれ? もしかしてこっちに真っすぐ向かって来てない?
「ティナ! 本当にティナお姉さまだ。お待ちいたしておりました。でも、どうされたんですか? 来られるのは来月のはずでは……」
フリーデちゃんは私の隣に座り、さらに抱き着いてきた。カチヤの町のことは知らないみたいだ。
「およしなさい。ティナはこちらに着いたばかりで疲れているのですよ」
「えー、だって楽しみにしていたんですよ。そうだ、お部屋は私の隣なんですよ。ティナお姉さまはもう見られました?」
「そうなんだ、お部屋隣なんだね。着いてすぐにここに来たからまだ見てないんだよ」
「そうなの! ねえ、お母さまティナお姉さまを連れて行っていいですか?」
「落ち着きなさいフリーデ。まだ話は終わっておりません。それに、ティナは今大変な状況なのですよ」
「そうなのですね……わかりました。静かにしていますので、お姉さまの隣にいてもいいですか?」
カミラさんがそれならいいというので、フリーデも一緒に話を進めることになった。
「……それでは、おじさまとおばさまは町を守るために残られたのですね」
「うん、私だけ逃がされてきたんだ」
「ティナお姉さまが無事でよかったです。でも、あのきれいな街を攻撃するとか教皇国の人たちは許せません!」
「フリーデちゃんはカチヤに来たことがあるの?」
「はい、お姉さまのお見舞いを兼ねて何度か行ったことがあります」
お見舞いに来てくれていたんだ。
「それじゃ、痩せていた時も?」
「事故に遭われた後、初めてお伺いした時はびっくりしました。元気だったお姉さまがあんなになられてて……あの時は悲しくて仕方がありませんでした」
昔の私も知っているんだ……
「ねえ、フリーデちゃん。聞いているかもしれないけど、私って昔の記憶がないんだ。だからフリーデちゃんを悲しませることもあるかもしれない……」
「お姉さま。目覚められたときに、お母様に届いたおばさまからのお手紙を読みました。それを見て私のことも忘れているのかなって……、その時は少し悲しくなったけど、お姉さまが元気になったということの方が嬉しくて……だから昔のことを思い出せなくてもいいので、改めて私のお友達になってもらえますか?」
「もちろん! よろしくねフリーデ」
「はい! ティナお姉さま」
再度抱き着いてきたフリーデの頭を撫でていると、いきなりドアが開いて身なりの整った男性が入って来た。
「ティナが来たんだって!」
「あなたまでなんですか、ノックもしないで」
「いや、すまない。セバスから聞いて慌ててやってきたんだ」
男性はそう言いながらカミラさんの隣に座り、私に自己紹介をした。
「この家の当主のコンラート・ウェリスだ。知らせは受けてるよ、元気になったねティナ。これからはこの家を我が家と思って暮らしてもらっていいからね。それで、早速で申し訳ないが、あちらの状況を聞かせてもらえるかな」
私とエリスは改めて挨拶をして事情を話すことにしたけど、今回はほとんどをカミラさんとフリーデが話してくれたので相槌を打つだけで済んだ。
「あのー、すぐにカチヤの町に兵隊さんを送ってもらえるのでしょうか?」
「送りたいのはやまやまなんだが、一部の者が兵を送ったら王都の守りをどうすんだと言い出してな。それから話が進まんのだ。カチヤは王都にも近いというのに何を考えておるのだまったく……」
それだと、お父さんとお母さんを助けることができないよ。どうしよう……
(ユキちゃん、ボクが言う通りに話してみて)
(何か考えがあるのね。わかったやってみる)
待っていても仕方がない、ここはこいつの言うことにかけてみよう。
「コンラートおじさま。カチヤの町をこのままにしておいたら、王都は近いうちに教皇国から攻め込まれますよ」
えっ! そうなの?
「ふむ、ティナはどうしてそう思うのかね」
どうしてそうなるのかわからない私は、デュークが言う通りに話をすることにした。
「なるほど、カチヤを拠点にされたら、いつでもあいつらは王都を襲うことができるようになるわけだ」
「はい。ですから、教皇国からの兵の補充がくる前に叩く必要があります」
デュークが言うにはカチヤの町は周りを山に囲まれていて、入るにはいくつかの街道と地元の人たちが使っている抜け道ぐらいしかないらしい。だから、もし兵を増員されてその街道や抜け道をすべて押さえられたら、陸から攻め込むのは至難の業になるんだって。
かと言って、海から攻めるにも軍艦を増強されたら叩くのも大変だし、放置していたら教皇国が海を使って王都の近くまで兵を送り込むのも容易になるみたい。
デュークにいつそんなこと調べたのって聞いたら、私がエリスからこの世界のことを勉強するときに一緒に学んだって言っていた。私も一緒に聞いていたはずだけど、ここまで考えることはできなかったよ。
あいつって普段は子供みたいな話し方しているから、まったくあてにしてなかったけど意外と頭がいいんだなって感心しちゃった。
「仮に教皇国が兵を送り込んでも、カチヤの辺りは陸地が少ないから食料に困るだろう。黙っていたら自滅するんじゃないのか?」
そうそう、海のそばだから魚は獲れるけど、穀物は足りないから他の領地から買っているって聞いた覚えがある。
「教皇国からの海の補給路を塞ぐことができたらそれも可能ですが、そうすると町に残った人たちがどんな目に遭うかわかりません。兵糧攻めは最後の手段です」
そうだ、兵隊の食べ物が無くなったら町の人たちの貯えを奪っていくはずだ。そしたら、飢えてしまう人たちも出てくるかもしれない。
「うーん、わかった。それでどうやってあいつらを叩けばいいんだ。やみくもに兵を送ってもダメだろう」
「それについても考えがあります」
うそ! 自分で喋っていてなんだけど考えがあるんだ。
「よかったら聞かせてくれないか」
私はそれからデュークが考えていることをそこにいるみんなに伝えた。
「すごい! ティナお姉さまって天才だったのですね!」
私がすごいんじゃなくて、こいつがすごいんだけど……確かにこの方法ならうまくいきそうな気がしてきた。
(ユキちゃん、話を続けて)
(あ、ごめん)
「この計画は相手の兵が少ない今しかできません。出来るだけ早く派兵してほしいのですがどうしたらいいでしょうか?」
「明日、国王の御前で会議を行うことになっている。その時にこの話をしてくれたらすぐにでも決まるだろう」
もしかしてコンラートさん、今、してくれたらって言った?
「ティナ、明日はよろしく頼むよ」
「いや、私はただの女の子ですよ。王様の前になんか行くことはできないんじゃないですか?」
確か、エリスから王に謁見するにはいろいろな手続きが必要だから、ほとんどの人は遠くから眺めるだけだって聞いたような気がする。
「その心配はいらないよ。ティナは、カペル男爵家の一人娘でカチヤはその領地だ。領地が外敵から攻め込まれたときには、領主は王に対して意見を述べることができるようになっている。ティナはカペル男爵の代理として十分資格を持っているよ」
とほほ、まさか王様に謁見することになろうとは……でも、お父さんとお母さん、それに町の人たちのためだ。私も頑張らないといけないよね。
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