第13話 それでいいよユキちゃん

「これって、検問ってやつかな」


 王都の入り口には、馬車と旅人の長い列ができていた。


「普段は自由に出入りできるのですが、カチヤからの知らせが届いているようですね。教皇国の工作員がいないか調べているのでしょう」


 知らせが届いているのなら、早くカチヤを助けに行って欲しい。


「いつ頃になりそうか、先を見てまいります。デューク様、ティナ様の事をよろしくお願いします」


(任せて!)


「デュークが、任せてって。エリス気を付けてね」


「はい!」


(早く入れるといいね)


(うん)


 馬車を出ていったエリスを待つ間、もう一度、今の状況を整理してみる。


 私が家を出るとき、カチヤの町はエルギル教皇国の軍艦に襲われていた。


 お父さんの話では、町の人たちと協力して、騎士団の人たちが上陸を阻止しているから心配ないということだったけど、エリスによると大砲が使えない状態では、一気に攻め込まれたら、そう長い時間持たないかもしれないということだった。

 もしかしたら、もうすでにカチヤの町は教皇国に占領されているかもしれない。でもエリスは、教皇国は物資の補給地を確保するためにカチヤの町を襲ったはずだから、領民に慕われているお父さんとお母さん、つまりカペル男爵家の人たちに危害を加えないんじゃないかって言っていた。


 わずかな期待だけど私たちはこれにかけていて、王都からできるだけ早く、カチヤ奪還のための軍隊を送ってもらわないといけないのだ。

 だって占領が完了してしまったら、お父さんとお母さんの命が危なくなってしまうから。


「ティナお嬢様。お客様のようです」


 思いを巡らせている途中、前方の窓が少し開いて御者のおじさんが教えてくれた。


 コンコン!

 すぐにドアがノックされ、外から若い男性の声が聞こえてくる。


「失礼いたします。私はウェリス侯爵家の使用人のレオンと申します。こちらはカペル男爵家の馬車とお見受けいたしました。ティナ・カペル様はこちらに乗られておりますでしょうか?」


「あ、はい。ティナは私です。すぐに開けま……」


 私がドアを開けようとするのをデュークに止められた。


(ダメだよ、ユキちゃん)


(どうして? ウェリス侯爵様は今から行くところだよ。私を迎えに来てくれたんじゃないかな)


(教皇国の工作員だとしたらどうするの? もし、ユキちゃんが人質に取られたら、おじさんたちあいつらの言うことを聞かないといけなくなるよ)


 考えすぎな気もするけど、確かに私が人質に取られたら、お父さんたちを助けようという計画ができなくなってしまう。


「ティナ・カペルです。ただいまともの者が出ておりますので、ドアは開けることができません。ごめんなさい」


「いえいえ、ティナ様が無事到着されていたのならそれで構いません。それではお供の方が戻られるのをここで待たせてもらいます」


(そうそう、それでいいよユキちゃん)


(ねえ、ところで外にいるのはどんな人? 若い声だったけど)


 デュークの気配が少し離れ、そして戻って来た。


(えーとね、銀髪で背の高い男の人。そしてエリスちゃんも戻って来たみたいだよ)


 しばらくすると、外から話し声が聞こえてきた。


 そして、ドアがノックされ


「エリスです。ティナ様開けてください」


 私は鍵を開け、ティナを中に招き入れる。


「ウェリス侯爵家の従僕じゅうぼくの方でした。今から屋敷まで案内してくれるそうです」


「よかった、本物だったんだ。デュークが工作員かもって言うから、ドアを開けなかったんだよね」


「はい、今は戦争中ですから、それが正解です。デューク様、ありがとうございました」


(えへへー)


(ありがとう、デューク。でも、あんたは乗り移れるんでしょ。危ないときにはそうしたらいいんじゃないの?)


(うん、そうだね。一人か二人の時はそれでいいかもしれないけど、そうじゃないときはどうするの?)


(そうか、何人もは操れないんだ)


(うん、それに結構きついんだよ、あれ)


 そういえば、あのあと大砲撃ち込まれてそれどころじゃなかったけど、しばらくの間デュークは大人しかったような気がする。うーん、人に乗り移るとかあまりやらせたらダメなのかもしれない。


 あーあ、こんなことなら格闘技を見ているだけじゃなくて、習っておけばよかったなー。私が戦えたらみんなに心配させなくてすむのに。

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