第5話 結婚って早くないですか!?
「あなた、学校に行ってみない?」
ワゴンに掴まっている私を、エリスと一緒に支えながらアメリ―さんは話しかけてきた。
「学校ですか?」
「そう、王都に貴族の子供たちのための学校があるの。14才から17才までの子が1年間、通うことができるのよ。ちょうど姉の娘が、今年の9の月から入学することになっているから、一緒に通ったらどうかと思うの」
14才から17才なら4年あるはずなのに、なんで1年間なのかと思ったら、その年齢の間に1年間いけばいいそうだ。そしてクラスは年齢に関係なく一つだけだから、先輩後輩の関係は無いらしい。
今は5の月中頃で9の月まではあと100日ほどある。そこまでに歩けるようになるかわからないけど、精神的に他人の私がこんなに優しい人たちに囲まれながら、この家で暮らしていくのがつらくなっているのも事実なんだよね。
「でも、勉強の事ってよくわからないんですけど」
「あなたなら大丈夫よ。ずっと眠っていたから心配していたけど、頭の良さなら保証するわ」
頭の良さと言っても、起きる前の私は中学校を卒業したばかりだったから、専門的なことはわからない。それに、成績も中の上ぐらいだったから、そこまでいいといわれたら逆に不安になってしまう。そういえば、せっかく一生懸命に勉強して、合格した高校に通えなかったのは残念だったな。友達とも離れ離れだし、みんな元気にしているのかな。
それから二人に手伝ってもらい、何とか自分の足で部屋に戻ってからも、学校についての話を聞くことにした。
「それでは、学校と言っても社交界に出るための練習の場といった感じなのでしょうか」
「そうね、勉強自体はそこまで重点が置かれてないかな。どちらかと言ったら結婚相手を探す場所が近いかもしれないわね」
結婚相手という言葉にクラっとしてしまった。
「結婚って早くないですか!?」
(そうそう、早い!)
「早いってことは無いわね。私は18でこの家に嫁いできたわ。早い子だと16、遅い子でも20才までには結婚するわよ」
アメリ―さんはハーゲンさんがいないときには、私に対して少し砕けた感じでいてくれるから話しやすい。お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな……
それにしても20才かー。日本ではそんなに早く結婚する人は稀だよ。ほんと世界が変わればいろいろと変わるもんだと実感するよ。
目が覚めてから一か月以上経っているんだけど、結局この世界は私が知っている地球ではないようだということはわかった。文明の発展度は遅れているし、エリスからこの近くの国や宗教について聞いてみたけど、一つとして知っているものはなかったんだよね。私だってテレビのニュースくらいは見ていたから、全部と言ったら無理だけど、ある程度の国の名前くらいは知っている。それが、まったくわからないということは、そういうことなんだと思う。
「学校って行かないといけないものなんですか?」
(そうそう、行かなくてもいいものなら行かない方がいい!)
結婚の話が出てから、こいつがやたらとうるさい。どうしたんだろう。
「そうねえ、貴族の子女の中には学校に行っていない子もいるけど、そういう子は最初から社交界でもうまく付き合えない子だって思われているわね」
つまり私が学校に行かなければ、カペル男爵家の娘は、人付き合いができない変わり者だって思われる可能性があるということか。もし、私が一時的にこの体を借りているのならば、本来の持ち主が帰ってきたときに困ってしまうかもしれない。
「ティナは無理しなくていいわよ。起きてくれただけでも嬉しくてたまらないんだから」
この人たちを困らせるわけにはいかない。そう思った時、私の気持ちは決まった。
それから一応しばらく考えさせてくださいと伝え、エリスに頼んでこの世界の情報を集めることにした。さすがに何も知らない状態で、知らない人たちのところに行く度胸はないからね。
前に話したかもしれないけど、私たちがいる場所は、カペル男爵が治めているカチヤという町の丘の上にあるカペル男爵のお屋敷。カペル男爵領は、レナウス大陸の西半分を支配しているリビエ王国の一番西側に位置していて、カチヤの町がある辺りだけが領地の王国でも一番小さな貴族領なんだって。穀物はあまり採れないけど、それでも、海からの海産物と交易によって領内は豊かだってエリスが教えてくれた。
「男爵領の領民の多くは生活に困っていませんし、王都に近いから治安がいいと聞いています。ただ、東の方はあまりよくないようです」
レナウス大陸の東側には、中小の国や豪族が支配している地域があるらしくて、常に小競り合いを繰り返しているらしい。それに、他のレナウス大陸以外の陸地でも国同士の戦争は絶え間なく続いているようで、地球でもそうだったけど、人間というものは、争いから逃れることができない生き物なのかもしれない。
(怖いねユキちゃん)
(ほんとだよ)
戦争が身近な世界か……やっていけるのかな。
「エリスはよく知っているね、どこかで勉強をしたの?」
エリスは私と同じ年だといっていたから16才のはずだ。本を読んでもらったこともあったから文字も読めるようだし、地理にも詳しいみたい。でも、5年前から私のところに居るって言っていたな、ということは11才からか……
学校も王都にあるものだけと言っていたけど、カチヤの町に塾みたいなものがあるのかな。
「私の家は情報を扱う仕事をしているんですよ。そして、たまに本を送ってもらって、それを読んでいます」
なるほど、家で情報を扱っていたのなら文字も小さい頃から教えられていたんだろう。それに送られてきた本に書いている内容も、かなり事実に近いんじゃないかな。嘘を教えて娘が間違った判断をしたら困るだろうしね。まあ、教えられる範囲の事だろうけど。
ある程度こちらのことが分かった私は、アメリ―さんたちに学校に行きたいことを伝え、その準備を行うことになった。
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