パンを踏んだ娘
半魚人の兵士たちと、魔法使いの女性たち。
ついてきてくれたみんなは強くって、私は順調に魔王の居るお城へと進めていた。
魔王の城に近づくと、雪景色が広がってくる。
みんなは魔王の戦力を知っているみたい。
魔王の犬と氷狼と吸血鬼、その三種類の魔物以外なら、敵では無いということらしかった。
だけど……私たちはその三種類では無い、たった一体の魔物に足止めをくらってしまう。
それは、動く死体だった。
瞳はえぐられてすでに無く、関節は異様な方向に曲がっている。――そんな死体。
周りには、その死体に殺されたであろう、魔物たちの血と死体があり、それらが白い雪の上に転がっていた。
「強い! 歯がたたん!」
「魔法すら避けるなんて!」
「一定の範囲に近づいた者に襲いかかるようだ!
離れるんだ! 距離を取れ!」
操り人形が踊るように、近づく者を襲う剣士の死体。――私はその死体が、彼女が生きていた頃を知っていた。
「インゲル……」
彼女の名前を呟く。
金の短い髪に、軽装な鎧をつけた少女の死体が、死の舞を踊る。
目をえぐられて胸を裂かれても、赤い靴を履いた彼女は踊り続けていた。
(あの靴は、私しか脱がすことはできない。)
ヘルガが、そう言っていた。
彼女はもう、彼女では無いだろう……だけど、彼女はインゲルだ。
カイに見せる可愛かった笑顔も、ヘルガに見せた裏の顔も、私は知っている。
――私は、止めないとと思った。
もう死体になった彼女に、何をしても意味は無いのかもしれない。
だけど私は、彼女を弔うと決めたのだ。
「燃やしましょう! 灰にすれば、止まるはず!」
「ダメ! そんな死者への冒涜は!」
「ですがカレン様、あれはもう……」
「私がいく。あの靴を脱がせば、彼女は止まる。あの靴は、私しか脱がせない。――私がいくよ!」
「しかしあの動き、あの剣速は近づけません。あ……、我々何人かが命を
半魚人たちが、自分たちを犠牲にした作戦を立てるが、私は断る。
私は私なりに、作戦があったのだ。
「大丈夫! 私一人でいく!
お願いがあるの。私に鎧を着せてちょうだい。」
私は、半魚人たちの着ている鎧を着させてもらった。
私には大きすぎてサイズはブカブカ、籠手なんかは付けられない。
だけど構わず、私は二重に鎧を被せてもらう。
頭には兜の上に胴の部分の鎧をつけて、下にも胴の部分を重ね着。
腕も全て鎧の中で、目が出てないから何にも見えないし、足だけしか動かせない。
その姿はきっと、樽のようだっただろう。
「カ、カレン様……」
半魚人たちも魔法使いたちも、声を失った。
――動く「樽型鎧魔人(私)」
新たな魔物が、誕生したからだ!!
「私をインゲルの方向に向けて!」
見えない私は、そう指示を出す。
インゲルの方向に走りさえすれば、あちらから襲ってくるはず。
ただの体当りで倒す!――私は、そんな作戦を立てたのだ。
「ぬぅぉぉぉおおおお!!!!」
――私は叫び、走り出した!
何歩か走った瞬間、恐ろしい金属音と衝撃が私を襲う!
(こわい! こわい! こわい!)
インゲルの剣撃、何度も凄まじい金属音が繰り返す。
だけど、繰り返した最後に一番強い音がして、そして音が止んだ。
半魚人の一人が大声を出す。
「カレン様! 剣が、剣が折れましたぞ!」
それを聞いて、私は勢いよく飛んだ!
勢いで倒れこみ、ブカブカの鎧は脱げてしまう。
倒れた私の下には白い雪と、変わり果てたインゲルの身体があった。
「靴を……」
靴を脱がそうと、私がインゲルに触れた瞬間だ。
白い雪の上に、大きな赤い魔法陣が広がった。
そして、私の着ていた鎧が、インゲルの身体が、冷たい炎に変わってしまったのだ。
「そんな!? 私はそんなつもりじゃ!」
(死体を焼くなんて、そんな真似をするつもりは無かったのに!)
私は、自分もまた炎に包まれていることも忘れていた……でも、気づけばこの炎は熱くない。
――私が気づいた時。
炎が、空へと舞い上がった。
炎が空に浮かぶ不思議な光景……青空に浮かぶ炎を見上げていたら、炎は形を変えていく。
それは、大きな鳥の形。
それは、中くらいの鳥の形。
それは、小さな鳥の形。
炎はどんどんと小さくなって、ある時、白く光り輝いた。
「ピー!!」
そして炎は黒い小鳥に姿を変えて、一声鳴いた。
「え? 鳥?」
可愛いけれど、少し気の強そうな小鳥。
私はなぜか、インゲルに似ていると、そう思ってしまう。
その小鳥は起き上がろうとする私の前の、雪の上に立った。
そして、何かを伝えようと鳴いてくる。
「ピーピ、ピーピぴッ! ピッピぴっぴピー!」
(ごめん、何言ってるかわからない……)
私が困惑する中、半魚人たちや魔法使いたちが、小鳥について話し出す。
「ああ、なんと美しい鳴き声!」
「あれはサヨナキドリだ!」
「私、初めてあんな美しい鳴き声を聴いたわ!」
(美しいか? でも、この鳥サヨナキドリっていうのか? ――じゃあ、サヨちゃんか!)
私は小鳥の情報を聞いて、さっそくそれを使ってみる。
「あなたは、サヨちゃん?」
小鳥は「何言ってんだコイツ」って感じの仏頂面。
私は、さらに聞く。
「あなたはインゲル?」
今度はサヨちゃん、首を横に振った。
(よしよし。なんとなくだけど、意思疎通が図れてきたぞい。)
「ピーピピー!」
サヨちゃんが片方の翼を、遠くに見える魔王の城に向けて鳴いた。
「サヨちゃん、一緒に行くの?」
「ピー!!」
今度はサヨちゃん、両翼を上げて、イエスのサイン。
(ついてきても意味があるのかな?)
そう思ったけれど、この小鳥を見ていると、私は心が軽くなった。
悪に染まり、そして死んだインゲルの魂。――その魂がもう一度、私と仲良くしてくれている。
そんな風に感じて、私の心を軽くしたのだ。
「よし! じゃあ一緒に行こう。」
私は、サヨちゃんに言った。
私がそう言って立ち上がると、サヨちゃんは飛んで、私の頭の上に乗ってくる。
――サヨちゃんは、なんなのか?
この先、どんな魔物が待ち構えているのか?
なぜ、動物たちは私の頭に乗ってくるのか?
たくさん疑問や不安はある……
だけど私は前に進むと、また歩き出したのだ!
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