愉快な仲間たち


 海に沈んで、助けられて……


 ――私は洞窟の中にいた。


 海沿いの崖にできた小さな洞窟、その中の小さな砂浜に、私は倒れている。


 隣を見れば、助けてくれた女性が座っている。


 深い海を思わせる紺色の長い髪、美しい白い肌に、胸に白布を巻いただけのセクシーな姿。


 深く青い瞳で私を見る、その微笑みも美しい。


 でも、すらっとした足がなくて……銀の鱗を纏った尾ひれが、滑らかに伸びていた。


「あなたが助けてくれたんだね。」


「そうよ、カレン。はじめまして。」


「ありがとう! 半魚人のおねっつ痛っ、たあ!」


 おねーさんが私の頬を、笑顔のままでつねってくる。


「カレンに何すんだ! このぶずっ! いっ、たたたたたた!」


 私に背負われたヘルガも、私と同じ状況になったようだ。


「あなたたち、よく聞きなさい! 私は人魚姫! 半魚人でもブスでもないの! 人魚姫よ!

 ――はい、ちゃんと呼んで! 人魚姫♪」


「に〜んぎょひぃめぇえ。」


「に〜んぎゅひいめええ。」


 私たちがそう言うと、半魚人のおねーさんはほっぺを解放してくれた。


「いてぇ! マジいてぇ!」


「あ、ありがとう、は、に、人魚姫のおねーさん!」


「いいえ、どういたしまして。海で困った人を助けるのが人魚姫よ。それに、あなたは私の契約者だしね。」


(このおねーさんも、私の契約者?)


「でもカレン、私のことは人魚姫、人魚姫だけ呼んでくれたらいいのよ。私、あなたより年下かも?」


「あんた、すでにこの世界に肉体を持ってるだろ。カレンの魂を運んだあと転生したんなら、年下はねえはずだ!」


「ヘルガ! あなたは黙ってなさい!」


 ヘルガはおねーさんに笑顔で睨まれて、そして黙った。


 どうやら、恐怖を植え付けられたらしい。


(わかる!)


「カレンは、何歳になったの?」


「じゆ、十五歳……」


「そう! 私は十七歳だから、やっぱりおねーさんでいいかもね!」


(嘘だ!)


「ヘルガ、あなたが付き添っててどういうこと! 

まだ、最後の宝石も見つかってないし! あなたは、その有り様だし!」


「ご、ごめんなさい。」


(あやまったー! あのヘルガが謝った!)


「あなたはもう足手まといね。

 ――もうここで、別れなさい。」


「う、うん……」


 いつになくしおらしいヘルガ。


 私は、ヘルガを庇いたくなった。


「ヘルガは連れていくわ!」


「その子を背負ってどうするの? 私が見ててあげるから、心配しなくて大丈夫よ。」


「で、でも……」


「足が無いのよ、足が……足……あ! でもカレンなら、ヘルガの足を取り戻してあげられるかも?」


「え!?」


(え? 足、治せるの?)


「私も昔、足をもらったわ。――えぇと、魔女! 魔女がいれば、たぶんなんとかなるわ!」


「ま、じょ?」


「そう魔女!

 カレン、あなたなら呼び出せるはずよ!」


 思わぬ半魚人のおねーさんの提案に、私はとても嬉しくなった。


(ヘルガの足が治せる! やったじゃん!

 魔女……魔女を呼べば、いいんだね♪)

 

 私はヘルガを置いて、洞窟の奥に立つ。


 そして左手を突き出して、目を閉じて願った。


(魔女! 怪しいやつ!

 私は召喚士! 呼んでやるぞ!)


 とりあえず、よくわからないが力を込める。


 すると、ブレスレットの赤い宝石が輝いて……


「出てこい、魔女!」


 ――私は叫んだ!


 すると三人の目の前に、女性が現れる。


 金色の美しい髪に銀のティアラ、薄桃のフリフリのドレスから、幼く白い肌が見える。


(100%可愛い! これは違う!

 あれだ! これはきっとお姫様だ!)


「魔女たるわらわを呼んだか、アンデルセン。」


(もっと、怪しいやつを呼ぼう!

 怪しいやつ……怪しいやつ……)


「カレン、魔女が出たわよ!」


「あ、アタイの足を治してくれ!」


「ほほほっ! わらわの奇跡に授かりたければ、わらわの出す問題に答えてみよ!」


(怪しいやつ……怪しいやつ……)


「問題ってなんだよ! 自慢じゃないが、アタイはバカだぞ!」


「どうせ足をくれても、ただじゃ済まないような意地悪な魔法使うんでしょ! だったらタダで渡しなさいよ魔女っ子!」


「おぬしらワガママじゃな……まあよい、問題じゃ。」


(怪しいやつ……怪しいやつ……)


「わらわが今、考えていることを当ててみるがよい!」


「なんだい、そりゃ!」


「やっぱり魔女は意地悪ね!」


 すると、ブレスレットの紫の宝石が輝いて……


「余を呼んだか? カレンよ。」


 私の前に、筋骨隆々の裸のおっさんが現れた。


(しまった! ほんとに怪しいやつを呼んでしまった……「怪しい」の方向性を間違えた!)


「カレン、なんかアタイの足を治すのに、アイツの考えてること当てろって! 魔女が言ってる!」


「え? 魔女?」


「そうじゃ、わらわが魔女じゃ、アンデルセン。

 わらわの考えていることを当ててみっ……みっ……み!」


 魔女と名乗るお姫様は、顔を真っ赤にして私を見ている。――違う!


 私の横に立つ、裸のおっさんを見てる。


 裸のおっさんの下半身を見ている。


 私はわかった!


 問題の答えがわかった私は、答えを叫ぶ!


「私、お姫様の考えてることわかるよ!

 裸のおっさん! ちんち……」


「ぃ、言うなあああああ!!!!」


 私の答えを遮って、お姫様が全力で叫ぶ。


「当たりだから! 当たりでいいから! 願いを叶えてあげるから! だから、それ以上は言わないで! ――早く、その人をどうにかして!!」


「おっさん、帰っていいって。」


「カレンよ、余の役目はもう終わりか?」


「そうみたい。でも役に立ったよ裸のおっさん、ありがとう。」


 私がお礼を言うと、裸のおっさんは優しく微笑んだ……すると、ブレスレットの紫の宝石が輝いて、裸のおっさんは消えていったのだ。


「さあ、魔女っ子ちゃん、この子の足を治してあげて。」


「当たったんだったら頼むぜ、魔女!」


 顔を真っ赤にして、混乱しているお姫様……


 そんな可愛い彼女に、二人が容赦なく注文する。


「ま、待て。足を付ければ良いのじゃな。な、ならばこの薬じゃ。だ、だがこの薬には条件が……」


「ほら、結局は条件付きじゃない! だったら最初に問題なんて出すんじゃないわよ!」


 なんだか、半魚人のおねーさんの機嫌が悪い。


(お姫様と何かあったのかな?)


「ヘルガ、お前の場合は……そうか……。

 カレンよ、この娘の足を付けてやる前に、お前には先に旅立ってもらわねばならん。」


「え? 先に?」


「カレンを一人でか!?」


「そうじゃ、ちょっと事情があってな。」


「別にいいけど……この洞窟、海側にしか出入り口無さそう。私、泳いで出るしかないのかな?」


「アタイを背負ってなくたって、この海流じゃあ泳ぐのはキツイぜ!」


 そこに、半魚人のおねーさんが口を出す。


「そうね、ここから一人で出るのは大変かも。

 魔女っ子、あんたなんとかしなさい!」


「わ、わかった。どうにかしよう……」


 半魚人のおねーさんが注文を追加する。


 おねーさんのお姫様への当たりは、とにかく厳しい……お姫様は渋々と魔法を使った。


「これを使うが良い。そなたを、残りの魂の在り処へと導くはずじゃ。」


 そう言ってお姫様が出したのは、大きなカバンだ。


(何か入っているのかな?)


 私はカバンを開けてみる。


「空? 何にも入ってないよ?」


「それに入るのはお前じゃ、カレン。」


「入る?」


「そうじゃ、入ってみよ。」


 そう言われて、私はとりあえずカバンに入る。


 すると……カバンがゆっくりと、宙に浮かび上がったのだ!


「え! 何これ!?」


「それに乗って行くのだ、カレン。」


「え! 待って、これって……」


 私が喋ってるのを無視して、カバンはどんどん浮上する。


(ま、待ってよ! これ、めっちゃダサい!)


「かっけー! めっちゃかっけー! いいなぁ! いいなぁカレン! アタイが足治して追いついたら、一緒に乗せてくれ!」


 ヘルガは目をキラキラさせて言ってくる。


(マジか!? コイツ、美的センスおかしい!

 そういえば、会う女の子みんなブス呼ばわりしてたな。――あれ? 私、ブスって呼ばれてない……)


 そんなことを思う間に、カバンはどんどん進んでゆく……もう、洞窟を出てしまう感じだ。


「ねえ! これ、ダサいよね!?

 ――ダサいよね!? 絶対ダサいよね!?」


 私の呼びかけに、半魚人のおねーさんとお姫様は答えない。


 二人の美女は私を見ないように目を逸らしている……ヘルガだけが目を輝かせ、私に手を振って見送っていた。


 ――私は、洞窟を出て海の上。


 一人、カバンに乗って空に浮かぶのだった。

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