売られた少女
――私は、お母さんに似ている。
ブロンズの髪に黒い瞳、そんなに外には出ないから、肌だって白くてたぶん綺麗だ。
要するに、私って、ちょっと可愛い!
(……はず。)
そんな私に親父さんたちは、茶色い厚手の皮で作られた冒険者用の服とズボンを用意してくれた。
頭には、濃い緑のキャスケット帽。
地味だけど、それなりに可愛い!
(はずなんだよ……一つ、問題を除けばな!)
金髪男カイが、言ってくる。
(言うな!)
「なあ、一つ気になっているんだが……」
「言わないで!」
「え? だって、いや……」
「カイ、それもカレンの魔力ゆえです。」
「ゲルダ、そうなのか!?」
「え!? そうなの!?」
「え……、と、はい。」
髪の長い魔法使いの美少女、ゲルダがフォローをしてくれた。
なのに私本人が驚いて、気まずい会話からは抜け出せない。
(でも、ありがとうゲルダ。ほんとかどうかはともかくさ!――とにかくさ! 誰もつっこまないで!
――おかしいのは、私が一番わかってるよ!)
夜の街を、皮の冒険服にキャスケット帽をかぶって私は歩く。
頭にカエルを乗せたまま……
――家に帰った、私。
かなり、気まずい。
「お母さん……」
「何さ、あんたたち!?」
(あぁ、やっぱり、お母さん不機嫌だ。)
「俺たちは国王より魔王討伐の命を受けているものですよ。勇者カイって知ってます?」
「知らないわよ!」
お母さんにそう言われて、ちょっと凹んでるカイ。(――ちょっと、いい気味♪)
「……ゲルダ、頼むわ。」
カイは知的なゲルダに、お母さんとの会話を託す。
「カレンさんの魔力は、とても強力です。
私たちはカレンさんに、魔王を倒すため協力を願いたいと考えています。」
「は!? 魔力!? 魔王!? カレンを連れて行くっていうのかい!? カレンはうちの家計を担ってんだよ。金は? 金は貰えんのかい?」
「もちろん、相応の金銭をお渡しします。
――では、お金をお渡しして、それで同意したということでよろしいですね。」
「いくらだい? いくらくれるんだい?」
(あぁ、お母さん……私より、お金なの!?)
「国より2万ルフが支給されます。」
「に、2万ルフ!?」
「はい、2万ルフです。」
「いいよ! 連れて行きなよ!
いつ、いつ2万ルフは受け取れるんだい?」
「後日、兵隊が届けに参ります。遅くとも、翌日中には届けられるかと……」
ゲルダがそんな説明をして、話は決まる。
(――あぁ、売られていくよ、私。
お母さん……ちょっとは私の心配してよね!
魔王討伐って……私、死んじゃうかもよ!?
せめて……せめて、カエルにつっこんでよ!!)
「お母さん……」
「あ、なんだいカレン?」
「あの、いってくるね。」
「ああ、いっといで。」
(お母さん、素っ気ないな〜。)
そう思っていたら、ゲルダが私に小さく声をかけてきた。
「あなたは……、家族にお金で売られても、泣かないのね。」
「そりゃあ、泣きたいけど、お母さんは喜んでるし。でも、お母さん、急に大金貰って呑んだくれなきゃいいけれど……」
「不思議な子……」
ゲルダは私の心配をしてくれた。
(ちょっと、嬉しい♪)
――夜の闇の中、家の中だけが明るい。
契約は成立して、嬉しそうにお母さんは家の扉を閉める。
そんなお母さんの顔と姿を、私はぼんやりと見つめていた。
扉が閉まりあたりが闇に包まれるまで、じっと見つめていたのだった……
――私たちは、私の街に泊まった。
私は、自分の街に泊まることになる。
(変な感じ♪)
同じ部屋に泊まったゲルダが、寝る前に色々なことを教えてくれた。
明日、二人の仲間と合流すること、これから港町に向かうこと、海を渡れば、魔王の国があること。
そして……
「カレン、あなたは召喚士よ。」
「……召喚士?」
「――そう。
あなたは妖精や使い魔、もしかしたら神獣といった超常の存在を呼び出す力を持っているの。」
「そうなの!?」
「そのカエルからも、強い魔力を感じる。きっと、あなたが呼び出したのよ。」
そう話してくれるゲルダ。
(私は、召喚士か〜。でも、呼べるのカエルか〜。
あ! でも、しゃべるぞ、このカエル!
傷が治るヌルヌルも出る! すごいかも♪)
私はちょっと嬉しい気分。――その気分のままで、その日はカエルを抱いて眠ったのだ。
(暑い……)
朝だ……
木窓の隙間から日差しが見える。
誰かが私に抱きついてる……
(ゲルダ……?)
隣のベッドから私のとこに来るなんて、思ってたより可愛い人だな。
でも、ゲルダって……髪、ストレートだったよな?
(なんか、パーマかかってる?)
それに、こんな黒じゃなくて、私と同じようなブラウンだった気が……?
(てか、見たことあるな、この髪……)
私は、抱きついている少女の顔を見た。
そして、驚きの声を上げたのだ!
「へ、ヘルガ!?」
私の声に、ゲルダも起きた。
「あ、あなた、いったいどこから!?」
注目の本人は、至ってマイペース。
ゆっくりと目覚める。
「あぁ……、おはよう、カレン。」
「ヘルガ、なんでいるの!?」
「どこから入ってきたの!?」
「なんだ? 朝からうっせぇなぁ……。カレンはともかく、ブスは斬るぞ。」
そんなやりとりの最中に、ドアを叩く音。
「どうした!? 何かあったのか?」
隣の部屋にいたカイが、騒ぎを聞きつけやって来たのだ。
ゲルダと私は、目を見やる。
ヘルガはいつもの白いドレス、だけど、私とゲルダは薄い寝間着だ。――男には見せられない。
「カイ、大丈夫! ちょっと、後で説明する。」
「お、おぉ。わかった。」
ゲルダがそう言って、カイを安心させる。
私たちはとりあえず、服を着た。
「カレン、とりあえず外に出ますか。」
「うん、ゲルダ。――ヘルガ、靴は? 剣は?」
「剣は出せるが、靴はあの夫婦んとこに置いてきちまったな。」
(……コイツ、また履いてないな。)
私は安心できないし、ゲルダも納得していない感じだけど仕方がない。
とりあえず、私たちは部屋を出た……
ヘルガの強さは、みんなが知っている。
だから、ついてくると言うヘルガへの反対もなく、そのまま四人での旅になった。
――港町に向かう途中の集落。
そこでさらに、聞いていた二人の仲間と合流した。
一人は女の子……金のショートカットをした可愛い剣士、インゲルという美少女だ。
「はじめまして、ボクはインゲル。良かった! 女の子が二人も! きっと楽しい旅になるね。」
そう言って喜ぶ感じも可愛い♪
そこに、もう一人がブーたれる。
「勘弁してくれよ。――カイ、俺ら男の肩身が狭くなるぜ。」
そうカイに不満を垂らす、赤毛の大男。
斧を持った、戦士のハンスだ。
「ブスとむさいおっさ……んんん」
私はいらんことを言うヘルガの口を塞いで、二人には営業スマイルを見せた。
(今日から、うまくやるんだぞい!)
――男二人、女四人の六人パーティ。
ここから勇者の、私たちの、魔王討伐の旅は始まったのだ!
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