【KAC2022】 危険指定生物との出会いと別れ……そして再会!?

東苑

危険生物同士は引かれあう……



 わたしと育美いくみあやちゃんの3人は散歩同好会の活動で高校の近くの運動公園に来ていた。

 そしてこれから公園内の散歩コースでも歩きながら風景でも楽しもうかと思っていたんだけど……。


「ぐっ……膝が……!」


「文ちゃん!?」「文!」


 突然しゃがみ込んで膝を抑える文ちゃん。


「今まで運動から逃げてきた過去ツケがこんな大事なときに回ってきやがった……って、1回言ってみたかったんですよね」


「なにかの台詞かな?」


「はい。で、でも疲れたのは本当なのでちょっと休みませんか? 足、吊りそう……」


 というわけで少しベンチで休憩だ。


「文ちゃん、スポーツドリンク買ってきたよ!」


 文ちゃんの隣に座って、わたしは缶コーヒーを飲む。

 前から飲んでみたかった。


「ありがと~、麗ちゃん。この公園、近いって言ってたけど学校から何キロくらいなの?」


「3キロくらいだったかな」


「ぜ、全然近くない……わたし、小学校は家の目の前だったし、中学もすぐ近くだったから」


「え~いいな~。じゃあ学期末に習字カバンとか絵の具セットとかピアニカ、裁縫セットのフル装備でも大丈夫だ」


うらら、それ本当にやってたからね」


 と、ツッコみを入れてくる育美。


「私と麗は小中どっちも遠かったんだ。片道2キロ以上あったから歩くのは慣れてるのかもね」


「ひえぇ~、夏たいへんそう……」


「ね、小学生のときの私、よく頑張ったと思うよ。クラスの子たちからは“最果ての民”とか言われてたし」


「わたし、玄関着いたらしばらく大の字になってた!」


 今となってはいい思い出というか持ちネタの1つだけど。


「なんかこうやって話すと小中学校が懐かしく感じない? 高校で別れた友達も多いし、みんなどうしてるかな」


 育美にそう振られ、わたしはベンチに深く座り直し、背もたれに腕を回して足も組んでみる。

 そして片手には缶コーヒー……まずは見た目から大人の雰囲気を出していく。


「な~に、あいつらのことなら心配ない。今日もどこかで元気にやってるさ。それに生きてりゃまた会える……ふっ」


「麗ちゃん、渋い!」「なんか様になってるのが憎い」


「……なんかコーヒー飲んだせいかお手洗い行きたくなってきた!」


「わ、私も行きます!」


「はいはい、早く行ってきな。ここで待ってるね」


 育美を残してわたしたちはお手洗いへ。

 そして事件が起きた。



     * * *



 とある公園内のお手洗いにて。


「(ど、どどどどどどうしよう!?)」


 わたしは戸惑っていた。

 理由はお手洗いのすぐそばのベンチ。


「こ、こんにちは。私、い、育美いくみって言うの。仲良くしましょうね~……あははは」


 そこで育美いくみがなにやら独り言をぶつぶつ言ってるからだ。

 なにかの練習でもしてるのかな。劇とか。


「は~、このトイレすごく綺麗ですね~。綺麗なトイレって入るだけでちょっと幸せになりますよね~……ん? うららちゃん、どうしました?」


あやちゃん、しー!」


 人差し指を口に当て、もう片方の手でこっちに来てと合図する。

 そうしてあやちゃんと二人で、お手洗いの出入り口の陰から育美の様子を窺う。


「なんかね、育美が変なの……さっきからずっと独り言言ってて」


「え!? ……ほんとだ。誰かに話しかけてる感じですね」


 育美の独り言なんて初めて聞いた。

 それとも普段一人でいるときはこんな感じなのか。

 いずれにせよこのまま盗み聞きみたいなことをしてるのはよくない。

 ここはいつも通り「お待たせ! トイレットペーパーなくなるかと思って焦った~!」とか言ってなにもなかったことにしよう。そう思った次の瞬間だった。


「ワン!」「ひぃいいいいいい!?」


 その鳴き声ですべて理解する。

 独り言ではない。

 よく見ると育美の足元に犬がいた。

 育美はその犬に話しかけていたのだ。


 しかし何故? 

 またもクエスチョンマークだ。

 育美は犬とか猫とか虫とか、とにかく人間以外の生き物が苦手なはずなのに。


「ご、ごめんね! 急に話しかけられてびっくりしたよね? で、でもね、あなたに危害を加えるつもりはないの! それは分かってね!」


 と、ガタガタ震え上がりながら育美。

 背中側だから見えないけどきっと表情もすごいことになってるだろう。


 対するワンちゃん――犬種は多分ダックスフンド――は「グルルルゥ」と喉を鳴らしている。

 いつ飛びかかってきてもおかしくない。


「麗ちゃん、助けに行きましょう! わたしたちならやれます!」


 いつの間に清掃用具入れからモップを取ってきたあやちゃん。


「やるってそういうこと!?」


 あやちゃんはこくりと頷く。いい目をしている。

 で、でもさすがに少し威嚇するだけだよね?

 

「待って、あやちゃん……もしかしたら育美は苦手を克服しようとしてるんじゃないかな」


「え、育美ちゃん……」


「わたしたちがいないところで陰ながら努力して……育美、本当は人間以外の生き物とも仲良くなりたいのかも。だからきっと今が頑張りどころ――」


「麗ぁ、文ぁ! お願い、助けてぇ!」


「「じゃなかった!」」


 わたしと文ちゃんに気づいた育美がSOSを出す。

 すぐさま助太刀に入った。



     * * *



「ワン! ワン、ワン!」


「お~よしよし! かわいいやつめ~!」


「甘えん坊さんですね~」


 お腹を見せてきゃんきゃん鳴いてるワンちゃんを文ちゃんと一緒におさわりしまくる。

 離れて見守る育美は「どうして私だけ……」と愕然としていた。


「でもどこの子なんでしょう? 首輪ついてますけど」


「あれ、この首輪どこかで……?」


 育美が「え、また?」と言う。


 また、というのは以前に育美を付け回していた猫ちゃん――今も付け回されてるらしい――の首輪に見覚えがあって、わたしの近所の人の猫だと判明したときのことだ。あのときは地元の最寄り駅だったけど、今回は高校の近くの運動公園だからなぁ……。


「さすがに今回は違うんじゃない?」


「でもこの子とは初めましてじゃない気がするんだ。ね、ペコ丸?」


「ワン!」


「ほら!」


「いや今のはたまたまでしょ!? ……でも、その名前には覚えがあるわ」


「ペコ丸、ちゃん……私もどこかで聞いたことがあるような」


「ワン!」「あやまで!?」


 と、3人揃って首を傾げていたそのときだった。


「ペコ丸~!」


「ワン!」「今度は誰よ!」


 こちらに向かって女の子が駆け寄ってくる。

 金髪で日本人離れした顔立ちのそのは――


「ごめんなさ~い! その子、うちの子です!」


「「エイミー!?」」「エイミーちゃん!?」 


 え、みんな知ってるの!? と、わたしたちは顔を見合わせる。


「ありゃ、ウララにイクミにアヤじゃないですか!」


 ビシッと敬礼するエイミー。


「おはようございます、こんにちは、こんばんは!」


「「「おはようございます、こんにちは、こんばんは」」」


「文ちゃん、エイミーのこと知ってるの?」


「はい、通ってた塾が一緒で」


「アヤとはクラスも一緒だったのでよく話してました! アニメとか漫画とか! 日本のオタクコンテンツは世界一ぃ!」


「したね~! 懐かしい~! 貴重な栄養補給の時間だったよ。麗ちゃんと育美ちゃんは?」


「小中学校一緒!」


「エイミー、小一の途中で引っ越してきたんだよね。そっか文って学区が私たちの隣だから習い事とかしてれば知ってても不思議じゃないよね。他にも私と麗の知り合いのこと知ってそう」


「あの~」とエイミーが愛犬のペコ丸を撫でながらこっちを見上げる。


「3人はどうしてここに?」


「「「こっちの台詞だよ!」」」


「ワタシ、中学卒業した後、こっちに引っ越したんですよ!」


 ああ、そう言えばその話聞いたな。失念してた。


「私たちは散歩同好会の活動で来てたの」


「私が膝をやられましてベンチで休んでたんです」


「てかエイミー! 久しぶり~!」


「ウララたちに会えてワタシも嬉しいですよ! こんな偶然あるんですね、ペコ丸に感謝しないと!」


「そうだ! こら、エイミー! なんで放し飼いしてるのよ!?」


「ひぃ! ごめんなさい、イクミ! ペコ丸が走りたがっていたので一緒に走ったら千切られて、見失いました!」


「そりゃそうなるでしょう、もう! エイミー、あなたって子は小学生のときから危なかっしくて――」


「あんまり怒っちゃ嫌ですよ、イクミ~!」


 その後、文ちゃんの膝が回復したところで。

 一日体験入部のエイミーも入れた四人で、昔話をしながら公園内を散歩するのであった。


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