海編3


「坊ちゃま! ああ、ご無事でしたか。勝手に脱け出しては困ります!」


 息急ききって、教育係のリノが泳いで来た。

 僕が産まれるずっと前から、長年父に仕えている姥だ。

 僕は、ちょっとだけ反省する。

 リノだって、僕の為にこんな嵐の中を必死で探していたんだ。


「ごめんなさい、リノ」


「本当ですよ。さあ、父王様が大層ご心配されてましたから、急いで帰りましょう」


 後ろから急き立てられ、僕は渋々お城へと戻る。

 時折上を見上げながら。



「遅くなりまして済みません。坊ちゃまを連れて参りました」


 お城に戻り、父の玉座にリノと僕は跪く。


「リオン、お前また人間の所へ行って居たのか?」


 父に叱られると思っていた僕は、その優しい口調にびっくりして顔を上げる。

 父が微笑んでいて、隣にいるリノも口許が緩みそうになるのを堪えてる様子。


「本当に坊ちゃまは、セイン様にそっくりで」


「えっ、父さまも小さい時、人間を見に行ってたの?」


 父王は、苦笑しながら頷き、話し出した。


「私もリオン位の時には、よく人間の所へ行っていたよ。伝説に憧れていたからね」


 伝説。物心ついた時からいろんな人から聞いた。

 人魚と人間の恋の話。

 海の泡となって消えた、人魚のお姫さまの。

 僕のずっと昔の先人の話――







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る