皇帝と口喧嘩したらいつの間にか戦争にまで発展しそうになっていたんだが

でずな

第1話 始まりの会談



 ある日、世界中の人々はある悲報を耳にして涙を流した。悲報というのは、アル王国の国王そして王妃が死んだというもの。二人は、世界から愛されていた。理由は、世界が戦争の真っ只中アル王国国王は戦場に赴いて各国の仲を取り合い戦争を収束に導いた偉大なる人物だったから。

 なので、世界中の人々は涙を流した。

 流して、流して流して。人々はある疑問を前にして立ち止まった。それは、次のアル王国の国王は誰になるのかと。それによっては、世界の流れや行き先が変わるから。

 世界中から注目される中、一人の人物が悲しみに包まれていた世界の前に堂々と立ち上がった。その人物は、故アル王国初代国王そして王妃の一人息子、アル・マークス。

 彼は目立ったことはしてこず、謎に包まれていた人物だった。故に、期待され渇望された。

 まだ謎に包まれているが、世界はこの男に託された。新しい先導者アル・マークス。

 


「なかなかいい感じの出来じゃないか?」


 皇帝バ・ガードルはマークスについて書かれていた本を閉じて目の前にいる男、マークスに目をやる。

 今は、アル王国新国王マークス。そして、皇帝ガードルその会談の真っ最中。二人が会談している場所は、周りに大きな湖がある場所。二人以外ここには誰もおらず、密会のようになっている。テーブルの上には新鮮で、美味しそうな果物が置かれている。

 マークスとガードル。彼らは初対面ではない。二人が出会ったのは、まだ幼少期の頃。戦争が終わる少し前。幼かった二人はたまたま出会い、たまたま一緒に遊んでいたらいつの間にか親友……いや、血は違えど兄弟と言ってもいいほどの関係になっていた。


「だろだろ? これ、お前たちの国にも配ってくれないか?」

 

 テーブルの上の皿の上に置かれている新鮮なグレープフルーツを食べて、酸っぱいのだとわかりやすく顔にしわを寄せながらマークスは誇らしげに言った。

 マークスがアル王国の国王が変わってから早、一ヶ月。いろんなことをしてきたのだが、世界中に手っ取り早く自分のことを知らしめるためには本を活用する他ないのだという結論に至ったのだ。もちろん、世界的に注目されているのでアル王国でもできる。だがアル王国は、果物が特産物。そんな王国が出した本など、信用されないかもしれないという可能性がある。なのでマークスは、会談という貴重な時間を使って本を見せたのだ。

 ……まぁ、時間はたっぷりあるんだけど。


「いいけど……」


 ガードルは思いの外、積極的に本を勧めてきているのでなにか裏があるのかと思いながら承認した。そして皿に乗せられていた、最後のひと粒であったいちごをパクリと一口で飲み込む。


「は?」

「な、なんだよ」

「おい、俺のいちご食ったな?」

「……え? いや、僕の目の前にあった皿なんだからそれは僕のいちごじゃないか」


 マークスは顔に血管を浮き彫りにさせ、怒りを顕にしているがガードルは至って冷静に言い返した。

 なぜそんなに怒っているのか。それは何を隠そう、マークスは大のいちご好き。なので、たとえ皇帝だとしてもこの日のために研究に研究を重ね作り上げることに成功した超濃厚いちごを食べられたとなると冷静ではいられなくなるのだ。


「そ、れ、は! 今日、ガードルと一緒に食べて感想を言うためにずっと食べないで我慢していたうちの超濃厚いちごなんだぞ! なんで勝手に食べるんだこのおバカ!」

「な!? おバカとはないだろおバカとは。そんなこと言ったら、いつもいつもいちごばっかり食べてる偏食家な君のほうがおバカじゃないか!!」


 いつもだったら冷静に言い返すガードルだが、兄弟同然だと思っていた人物におバカと言われ冷静ではいられなくなってい。もっともマークスはただただ、自分が楽しみにしていたいちごが食べられていて拗ねているだけなのだが。


「ふぅ〜ん。そうかそうか。おバカって新たな世界の先導者の俺に言っちゃうんだ……。早く謝らないともうガードルとなんか、一生口利いてあげないからな!!」

「はっ! 僕はあの大国を束ねる皇帝なんだぞ。絶対、君から謝らないと一生口利いてあげない!!」


 お互いにふん! と首を横に振って口を閉ざした。

 二人は口でこう言っているが、心の中は「早く仲直りしたいな」である。マークスはなんかノリでいけないことを言っちゃったなと反省しており、ガードルは変な意地張っちゃったなと後悔していた。

 さっきからお互いに、先に声をかけてくれるのかとちらちら顔を伺って目があっちゃって慌てて目線をずらす。そんな変な無言が始まってから早5分。二人はいい加減、どうにかしないと本当に口を利いてくれなくなっちゃうのかとあわわ、と不安になっていた。

 

「「ごめんなさい!」」


 不安に耐えきれず、二人は同時に謝った。

 そして、お互い考えていたことは同じだったんだと笑いあってもう一度謝り仲直りした。それから貿易の話だったり、国内情勢だったり。いろんなことを意見交換して何事もなく、その日の会談は無事終了した。


 二人はそれから別れ、お互いの国に帰った。



 何事もなく終わったと思われていた会談。

 だが、数十キロ離れている塔の上に望遠鏡を覗いて口の動きのみで何を話しているのかわかる人物が盗み見していたことを二人は知らない。そしてその人物は二人が口論になった際、これは一大事だと仲直りするところを見ずに走り去っていってしまったということも……。



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