VTuberソー☆イチロー

ゴカンジョ

第1話 田原総一朗、ブイチューバーになる

 薄いスカイブルーのピンストライプシャツに、濃い青の無地ネクタイを締め、アッシュグレーのジャケットを羽織る総一朗は、事務所応接室のハイバックソファーに深く身を沈め、額に右手を当てて考え込むように目をつむっている。思案するように眉をひそめているせいで、総一朗のシワだらけの顔はさらにしわくちゃになっていた。


 きっちり七三に分けた白髪をひと撫でした総一郎は、意を決したように上半身をやにわに起こすと、カッと目を見開いた。間もなく米寿を迎える老体ながらいまだ老眼知らず、今なお表層から深淵まで日本の未来を見通さんと滾る総一朗の力強い両目は、センターテーブルを挟んで正面に座る井笠眞男いがさまさお伊達板水樹だていたみずきの姿をはっきりと捉えている。


「よし分かった。この田原総一朗、『ブイチューバー』としてデビューしようじゃないか!」


 総一朗の言葉を、井笠はさも当然という風情の無表情で、伊達板はニコニコの笑顔でそれぞれ受け止めた。応接室内で唯一、「信じられない」という表情を浮かべているのは、総一朗の隣に座る杉山だけだった。


 まさか、本当に受けていただけるなんて。っていうか、ホントにやるの?


 杉山は「田原総一朗VTuberデビュー企画」が本人同意の元で動き出したことに、自分が企画発案者であるにもかかわらず、ここにいる誰よりも動揺していた。

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