令和大正浪漫喫茶娘

みゃー

第1話洋館

気温は、25度はあるだろう…


桜が満開の京都。


富貴は、眼鏡越しに、快晴の青空を見上げた。


この日、久々に富貴(ふうき)は一人外出した。


小さな頃から大好きなおばに会う為だ。


おばは、父の歳の離れた姉で、今年で65歳になる。


富貴は、やっと、長かった高校受験がなんとか無事終わり、なんとかギリギリだと思うが、志望校の女子高にも合格した


その報告の為だ。


やっと、やっと自由になれて、しかも、おばさんからお祝いも貰えて、喜び一杯と言いたかったが…


実は、そうもいかなかった。


おばと会おうと約束していたのは、おばが所有する、大きな洋館。


京都は、誰も知る観光都市だ。


いたる所に古刹や神社があり、観光客の殆どはそちらに行く。


しかし、京都は、明治、大正、昭和に建てられた洋館も多いが、殆ど注目される事が無い。


おばの洋館も、大正始めに建てられたその一つだった。


それは、その時代のロマンと贅が集められ、そこかしこに凝らされている。


春になれば、庭の桜達は満開になる。


富貴は、小さな頃からよくこの洋館で遊び、いつも西洋のお姫様気分になったものだ…


だが、その洋館が、来年取り壊しが決まった。


富貴の両親の話しだと…


最初はそのままの形で、誰かに譲渡したいと探していたが、維持費と固定資産税が膨大な上…


このご時世で、高額な洋館と土地を買おうと言う者は現れなかった。


やがて、子供のいないおばは、自分が元気な内に、親戚に迷惑をかけないように処分する事を決めたらしい…


まだ、決まってはいないが、跡地には、マンション開発の業者の数社が手を挙げているらしい。


寂しさを抱えながら歩いていると、やがて…


今風の家々に囲まれた、おばの洋館が見えた。


もうすでに、庭の桜は満開で…


まるでそこだけが、異世界のように空気が違って見える…


富貴はいつものように、勝手に立派な西洋風の門を開け、洋館の敷地に入った。


すると…


玄関前の大きな桜の木の前におばが立って、風にかわいく揺れる満開の花びら達を見上げていた。


おばは、とてもレトロモダンな紺色の着物を着ていて、髪を結上げ…


まるで、大正時代にタイムスリップしたかのような錯覚を富貴は感じ…


暫くボーッと、その姿に立ち止まった。


すると…


「あら…富貴ちゃん…」


おばが、頭上の花のようににっこり笑った。


「お久しぶりです。あの…その着物、凄いキレイですね!あっ!いや…勿論、おばさんもキレイです!」


電話やメールでは頻繁にやり取りしていたが、久々の再会に、富貴は少し照れながら言った。


「ありがとうなぁ…富貴ちゃん…あっ、そうや!富貴ちゃんも、大正時代の着物を着て、写真を取れへん?」


「えっ?!」


富貴は、眼鏡の下で目を丸くした。


ここから、富貴は、令和大正浪漫喫茶娘の扉を開けた。



















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