没落騎士団再興記~黎明の七ツ星~
貴葵 音々子
プロローグ
炎が揺れる
殺せ、と誰かが叫ぶ。まるで呪詛のように広まった怨嗟は、一人の魔女の体を生きたまま焼き尽くした。その中心に、私と父はいた。
王都の広場で煌々と燃え上がる火炙りの炎が照らす隣で、父の首は落とされた。ごとり、と地面に転がった首に、どこからか石が飛ぶ。堪らず衛兵を振り払い、父『だったもの』を胸に庇い抱きしめた。
頭に、顔に、背中に、次々とぶつけられる憎しみを甘んじて享受することしか、幼い私にはできなかった。
出血と痛みで朦朧とする意識の中で、天まで届くほどの炎を見上げる。
星すら見えないほどの煌きの中、粛々と焼かれ続ける魔女の断末魔を代弁するように大きな火の粉が降り注ぎ、頬を焼いた。
その瞬間、私は魔女に呪いをかけられたのだと思った。
焼かれながら、彼女は笑っていた。
全裸で吊るし上げられ業火に炙られた身体は、もはや原型をとどめていなかった。父の首が飛んだ光景から目を離せずにいた私は、彼女の風貌すら知らない。それなのに、不自然なほどはっきりと微笑んだ口元が見えたのだ。
怨嗟に塗れて叫ぶ有象無象の人間が滑稽でおかしいのか、圧倒的な理不尽を前に泣くことしかできない無力な私を嘲笑っていたのか、その異質な笑顔の理由がわからない。溶けて地面に落ちた目玉がじっと私を見つめる。まるで、『この光景を忘れるな』と言われた気がした。
それからずっと、この時の炎が私の中で『怒り』となって燃え続けている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます