美少女ウミウシと残念幹事長
カンジチョー
第0章 春闘
昨年、春頃
「ごめんなさい。やっぱりカイリと私は違うんだよね・・・」
茶髪の長い髪をさらさらと揺らして去っていく。ああまた別れてしまった。この後、友達から聞いた話だと、俺の努力と熱に引いてしまったらしい。俺の努力する部分が好きと言っていた彼女が、努力で嫌いになったのはなんという皮肉だろう。
「なんだよそれ、ふざけんじゃねー!」
色鮮やかな公園をぶち壊す俺の怒りは、多くの人に無視され消えていった。
直後、足下に力が入らなくなった。
桜満開の公園に膝をがくりと落としてしまった俺を、周囲の人間はざわざわと言葉を交わす。
もう、その声は俺には聞こえなくなった。視界にはただ、目の前に落ちた桜の花びらが映る。落ちていった二枚の桜の花びらは、まるでこれから起こる不思議なことを感じさせる感じがした。
そして、突然来た身体の倦怠感に身を任せて、俺は
「あああああ!!」
勢いで公園中に叫んだ俺は、桜の花びら二枚を手に取り今度こそ眠った。
右手で包んだ桜の花びらを握りしめて、後悔を持ち込む。
「あ、起きました? よかったぁ、すぐに先生呼びますね」目を覚ますと若い看護師さんが、うふふと笑って俺にペコリと頭を下げて部屋を出た。
真っ白な部屋に簡易ベッド、年数があるのか身体をズラすとギギッと不快な音が聞こえる。
ここが病室だということは分かった。
「そうか・・・俺、ここ最近寝てなかったな」
前にあるテーブルには、あの時着ていた真っ黒なパンツと黒いダボっとしたパーカーが丁寧にたたまれていた。その上には桜の花びらが二枚乗っている。きっと看護師の気まぐれだろうか。
少し時間が経ち、状況を整理し終えた俺は重い身体を起こして、病院
こうして病院を見ると様々な点に気付いた。
理不尽に怒鳴る老人に応対する看護師の負担、そして看護師は寝ていないように見える。女性看護師の目に隈がくっきりと見えてしまった。
「ここもブラックなんだな・・・」
ため息を吐いてしまった。
俺自身が心底嫌いなブラック企業、上の人間が業績が下がれば、下の人間をすぐに切る。
この国だと早期退職や人事異動が主な理由だ。
俺は疲れ切った表情をする医師と看護師たちの間を、頭を下げ真っ直ぐと進む。病院内を一周したので、疲れ切った身体を休めるため病室に戻ることにした。
「ぐっ、なんて疲れやすい身体なんだよ」
自分の身体が重度の過労だったとはいえ、永遠に動けない身体に嫌気がさした。
海の中でスイスイと永遠に続く海を泳いでみたいと何度も思ってしまう。
そうこうしてるうちに病室の扉を開くと、あまりにも信じられない光景が目に映った。
「え・・・どういうこと!?」
そこにいたのは、知り合いに絶対にいないはずの可愛い少女だった。
一瞬、芸能人かと思ってしまったほどだ。水玉模様のワンピースにくっきりとしたスタイル、セミロングの黒髪と、白くて透明感のある肌に、大きい目をした絶世の美少女だ。
「き、君は誰だ?」
俺は驚いたあまり、病室の後ろの扉に思わずバシッと背中を打ち付ける。
その様子を見るや少女は、プッと吹き出してしまった。
その少女はその無邪気な笑みを必死に誤魔化すように、言葉を発する。
「ああ、ごめんなさい。驚かしてしまったようで・・・」
てへへとわざとらしく振る舞う少女に、俺は何と反応していいか分からなかった。すると突然少女の体がプルプルと震えだしていた。だんだんと抑えられず、爆発する風船みたいになり・・・
「ぷっ・・・ダメよ、ダメよ、今笑ったら失礼じゃない」
少女は両手を口に抑えて必死に笑いを堪えているようだった。
ただ時間が経つごとに笑いを堪えきれずに、両足をジタバタさせていった。
「あはははは !! 何よ、その顔ウケるんだけど!何、木綿豆腐のように固まってんのよ」
「なっ!?」
「だってね、僕の友達が盲腸の手術で入院してるから、好感度アップのためにお見舞いに行ったの。ただ下の名前を忘れててねあなたと同じ苗字の方だったから、思わず扉を開けた瞬間に出会ったの・・・あなたの元カノさんと」
「ま、マジかよ!?ってええええええええええええええ」
「ちょっと声デカすぎよ」
「す、すみません」
いやいやびっくりなんだけど、ってかアイツここに来たの?
俺を振っておいて、倒れた俺を心配して見舞いに来たってか?
あれ、じゃあなんで今、この病室にはいないんだ?そうした疑問をあっさりと少女は返す。
「それでね。あっちも驚いたみたいで、あなた誰なの?って韓ドラの修羅場のように聞いてきてね。思わず彼女ですって名乗っちゃったのよ!そしたら怒って、病室に日記と手作りクッキー置いて出ていっちゃった。いや〜、いたずら心ですみませんねっ。でも、あんな美人を手に入れた彼氏がまさか、君みたいな普通だったなんて!?ああ、期待して損したな〜」
少女がペラペラと悪行を話してくる。まるで自慢話かのように話す少女に、頭の整理が追いつかなくなっていた。
「ひどっ、いたずら心で済まないよ!えっ、ということは、これで俺たちが
「まぁまぁ、いいじゃないの。その代わりちゃんとクッキー貰ったんだから!
ほ〜ら、ほんのり甘くて美味しいよ〜。あーん」
「モゴゴゴゴ、ってか君は誰なの?」
俺は、満面の笑みで俺にクッキーを餌付けしてくる少女に、名前を尋ねた。
こいつ相当性格悪いなと思いつつも、話を聞く限りとっさに状況を理解して対応する少女に思わず驚いてしまっていた。
すると少女は自信満々に両手を腰につけて声を上げた。
「ふふ〜ん、僕の名前はウ・・・」
「あっ、ラ・・・副会長!ここにいたんですね」
背後から病室の扉を開けたのは、少女の同級生だろうか。丸メガネに三つ編みロングが特徴の真面目そうな女の子。
「うげっ、川上さん。どうしてここに!?」
「全く。生徒会長になろうとして、賄賂渡そうとしてましたよね。それで相馬くんの病室行こうとしてたんでしょ?相変わらず腹黒いよね?」
「んぐっ、はい・・・ごめんごめん」
「じゃあ帰るわよ。すみません、うちの副会長が大変申し訳ないことを」
川上さんは俺に頭を深々と下げる。
この少女と違って、いかにも礼儀正しい少女で思わず安心してしまった。「いえいえ、それにしても君たち学生なの?」
「はい、一応私たち中学二年生です」
「ま、まじかよ・・・随分と大人びてるな」
「え、そうですか?じゃあ副会長のおかげだと思います」
俺が素直に褒めると、川上さんは少女の方を見る。
少女はタブレットを開いて、スマホゲームをプレイしている。
しかも俺のベットに座って・・・ひたすらモンスターをパズルで倒すゲームをしていた。
(なんなんだよ・・・あの女)
「副会長ってあの子?」
「はい!副会長は凄いんですよ、テストも運動も何でもトップを取っちゃうんです!」
「そんな風には見えないけど・・・」
俺はもう一度少女の顔を見てみるが、いかにもモデルやっているアホな美少女としか見えない。頭がいいなんて普通に思えなかった。顔と性格が反比例しすぎているわ。
「ふふふ、いつか嫌でも知る日が来ると思いますよ?」
「ど、どういうこと」
「彼女、一度気に入った人を離さないので。もちろん私を含めてですよ」
川上さんは不気味な笑みで俺にそう告げて、いやいやな少女を無理やり引っ張って病室を出ていった。
「じゃあお邪魔しました!」
俺が手を振って見送ると、病室の前で嫌な会話が聞こえた。どうやらあの二人のようだ。
「ちょっと、やっぱりクッキー渡すのダメ?なんなら現金でも・・・」
「お金なんて絶対ダメですよ!もう、今日は大人しく帰ってくださいね、相馬くんには生徒会として私が代わりに挨拶しますから」
「う〜、分かった分かったから!今日は帰るからっ。そんな怖い目しないでよぉ〜」
「なんだったんだよ、あの子達」
俺はベットの上で横になり少女が貰ったクッキーを見ると、クッキーの袋の底に一枚の小さなメモが入っていた。
俺が恐る恐るメモを開くと、そこには衝撃の文字が綴られていた。
「あなた死なないでね?」
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